高校最後の冬休み、今日はアカネと受験勉強に集中していた。教科書のページがめくられ、ノートには筆跡が整然と並んでいる。アカネが机の上で教科書を開いて、真剣に文章を読んでいる。その隣で僕は数学の問題に取り組んでいた。時折、ページをめくる音やシャープペンシルのささやかな音が静かな部屋に響く。
「トオル、この問題、ちょっとわからないんだけど……」
「ああ、ちょっと待って。今この問題を解き終わったら教えてあげるから」
 アカネは少し不満そうな表情を浮かべ、窓の外を見つめながら待っていた。
「ねえ、トオル」
「なに? まだ問題解き終わってないよ」
「花火したい……」
「はい?」
 アカネの突然の言葉に、僕は机の上の教科書から目を離し、彼女を見た。こんな真冬の寒い季節に花火をしたいと言われた僕の混乱した思考ががやっと追いついた。
「花火? どうして今の時期に?」
「えっと、何となく? ちょっと息抜きしたいなと思って」
 僕は少し考えてから答えた。
「さすがに今は寒すぎない? それに、この時期に花火なんて売ってないだろうし、もし売ってたとしても、どこでやるつもり?」
 アカネは得意げに笑った。少し嫌な予感がする。
「実はもう通販で買ってあるんだ! それに、近くの河川敷ならできるらしいから大丈夫!」
 僕は彼女の準備の良さに驚いた。
「もしかして、花火に誘うためにわざわざ僕の家で勉強しようって口実作ったの?」
「さあ、どうだろうね?」とアカネは悪戯をした後のように笑う。
「本当にやるの?」
「うん、やりたい! それに冬の花火ってなんか特別な感じするでしょ!」
 僕はしばらく迷ったが、アカネの期待に満ちた目を見て、深いため息をついた。
「はぁ、わかったよ。本当にアカネはロマンチックな物が好きだね。じゃあ、いつやる? 明日とか?」
「今夜やろう!」
「却下」