「おもち、カリカリ食べてみるか?」
「キュウ?」
おもちに、取引先からもらった『中はふわふわ外はカリカリ魔力フード』を食べてもらう。
美味しければ、次回は案件もお願いしたいという。
見た目はキャットフードに似ているが、匂いは非常に香ばしい。
「キュ……キュキュウ!」
「お、旨いか?」
「キュウ!」
美味しそうに頬張るおもち。
やはり大手ということもあって、魔物の好みを熟知しているみたいだ。どうやってるんだろう。
魔物をいっぱい飼ってるとか?
「ふむふむ……」
その横では、タイトスカートの御崎が契約書に目を通していた。
ちょっと目のやり所に困るな……。
「どうだ?」
「……驚いた。ありえないわ」
残念だが、やっぱりそうだったのか……。
取引先は大手。それが俺たちみたいなポッと出の配信者に連絡してくるわけがない。
桁は凄かったが、色々な制約があるのだろう。
あの場では決められなかったので、書類だけもらって自宅に帰ってきたのだ。
それに俺だけじゃなくて、おもちにも聞こうと思っていた。
言葉が通じなくとも、俺たちは一心同体。だが、この御崎がありえないというなら断るしか——。
「最高の条件。契約しない理由が一つも見当たらない」
「……へ? そっち?」
「全部に隈なく特約が盛り込んであるけど、それも私たちのためにしかならないし、違反金もない。おもちちゃんの保険だって付いてくるみたい」
「嘘だろ……見せてくれ」
重要な項目には、御崎がわかりやすく赤ペンでチェックしてくれている。やはり仕事ができる。
俺もざっと目を通してみたが、彼女が言うのならば間違いないのだろう。
配信は自由にできるし、なおかつ新作フードも無料で提供もされる。ただ、当然スポンサーとしての、魔物フードの紹介を定期的にしてほしいらしい。
その代わり、最高級の魔物保険にも入れる。文句のつけようがない。
「これは凄いな……おもち、フードは美味しいか?」
「キュウキュウ!」
もっと食べたいらしい。これはもう……決まりかもしれない。
俺は御崎に視線を向けたが、同じ気持ちだとすぐわかった。
「よし、おもち。俺たちにスポンサーが付いたぞ!」
「キュウ!」
「ふふふ、じゃあこれからは3人で頑張りましょうね。おもっちゃんっ」
そうして俺たちは会社を退職後、すぐに良いスタートを切ったのだった。
ちなみに余談だが、あの後、会社はかなり大変なことになったらしい。
更に社長《バカ》の使い込みが発覚、経理のほうから詰められ、株主からも責められ刑事告発にまで発展しているそうだ。
これが俗にいう『ざまあ』ってやつか。
まあ、今はもうどうでもいいが。
◇
数日後、無事に契約も終えたことで、大和会社から新発売の『ちゅおチューオ』が届いた。
どろり濃厚ササミ味、魔力も補給できる優れもの。
ただ、人間が食べすぎるとお腹を壊すらしい。
「お久しぶりです。色々あって配信が遅くなってすみません」
久しぶりの生配信。お腹は少し痛いが、なんとか我慢できている。
御崎はお休みだ。会社を辞めたことを実家に説明しにいくので、泊まって帰るとのこと。
つまり俺とおもち、伝説のコンビの復活だ!
『ミサキちゃんは?』『なんだ、主の回か……』『ええい、おもちはまだか!』『おもち、おもち、おもち! 嘘、主も好きだよ』
どうやら俺より二人のほうが人気らしい。ぐすん、悔しい……。
しかし視聴者の望みを応えるべく、すぐにおもちを呼んだ。
「キュウー!」
段々とおもちもこなれている気がする。羽根は手みたいに動いてるし、人間味もある。
日に日に賢くなってるな。来年には俺がおもちのアシスタントになってるかもしれない。
……いや、今もそうか?
「今日は実は皆さんにお知らせがあります。なんとなんとあの有名大和会社から、新発売の改良型『ちゅおチューオ』を頂きました」
『まじ!? 買おうと思ってたから気になる』『改良型か。うちの魔物に買うか悩んでるんだよね。味のレポ頼む』『おもちなら信用できる!』
案件動画ということもあって、もしかしたら嫌がるかもしれないと思ったが、コメントに一切否定的なのはなかった。
それだけ『ちゅおチューオ』、果ては大和会社が人気だということもあるだろう。
「ではさっそくですが、おもちに食べてもらおうと思います」
丁寧に袋から取り出し、先っちょをハサミで切る。
にゅるっと飛び出してきたのを皿にとりわけ、食べやすいようにおもちの高さに合わせた。
「キュキュ! キュウー!」
一気にテンションはマックス。
びっくりするぐらい美味しそうに食べ続け、さらにコメントが増える。
『テンションあがりすぎw』『キマってねえか!? そんないい匂いなんだ』『おもち嬉しそう。それっていくらするの?』
俺はそれから、値段、発売日、成分表を紹介した。その間も、おもちは美味しそうに皿まで舐めている。
フェニックスは意外にも表情が豊かで、喜怒哀楽もある。
今は本当に幸せそうだ。
ちなみに、ASMR用のマイクをおもちに装着していた。これは御崎の案だ。
最初は何か知らなかったが、彼女のおかげで俺の配信レベルもアップデートしている。
『癒されるンゴ』『おもちの食べっぷりいいね。俺も食べてみたい』『うちの魔物が画面舐めはじめたんだがw』『持ち運びも良さそうだね』
ちなみに人間も食べられると説明しておいた。ただ、食べ過ぎるとお腹を壊すと、自分の腹をさすりながら説明した。
あと、味はいけるゾ。
『ゆうて食べるやつはおらんだろw』『流石にそれは心配しすぎw』『もしかして主の体験談?』『お腹触ってない?』
ちなみにこのあたりのコメントは、スルーしといた。
そうして紹介が終わると、おもちは魔力の補充を終えたのか炎をメラメラと強く漲らせた。
フードのパワーもあるだろうが、魔力が強くなっている気がする。
『おもち強そう』『ダンジョンとかいかないの?』『正直、伝説級の魔物が戦う所を見てみたい』
ちなみにダンジョンに関してのコメントは多い。それについては御崎について調べてもらっている。
今後のお金の面でも、情報面でも必要だろう。
「よし、おもち新技いくぞ!」
『新技?』『何が見れる?w』『炎のブレスか!? 主、死ぬぞwww』『またあれ見たいww』
「キュウ!」
そしておもちは、綺麗な羽根をバサリと広げて、俺の手に重ねた。
「おて!」
「キュ!」
そう——『お手』だ。
犬や猫でお手は見たことあるだろうが、おもちはフェニックス。
これは前代未聞、世界初だ。しかし、どうだ……?
『かわいい……』『おもち、既に主のIQを超えた模様』『実はこれおもちがお手をしてるとみせかけて、主が“させられてる”んだよね』
『賢すぎるw』『ワイもおもちを飼いたい』
思った反応と違うのもあるが、可愛いというコメントが多い。良かった。
おもちと練習を重ねたかいがあった。
そうして動画は締めに。
「では新発売の改良型『ちゅおチューオ』でした。是非皆さん買ってください! リンクを貼っておきます!」
手を振る俺。おもちも手を振る。
『日に日に仲良くなっとるw』『おやすみおもち!』『おつ! 絶対買います!』『買占め禁止、転売禁止の文言もつけといてね』
『パッケージにおもち載せてほしい』『お疲れ様でした』
「キュウ?」
おもちに、取引先からもらった『中はふわふわ外はカリカリ魔力フード』を食べてもらう。
美味しければ、次回は案件もお願いしたいという。
見た目はキャットフードに似ているが、匂いは非常に香ばしい。
「キュ……キュキュウ!」
「お、旨いか?」
「キュウ!」
美味しそうに頬張るおもち。
やはり大手ということもあって、魔物の好みを熟知しているみたいだ。どうやってるんだろう。
魔物をいっぱい飼ってるとか?
「ふむふむ……」
その横では、タイトスカートの御崎が契約書に目を通していた。
ちょっと目のやり所に困るな……。
「どうだ?」
「……驚いた。ありえないわ」
残念だが、やっぱりそうだったのか……。
取引先は大手。それが俺たちみたいなポッと出の配信者に連絡してくるわけがない。
桁は凄かったが、色々な制約があるのだろう。
あの場では決められなかったので、書類だけもらって自宅に帰ってきたのだ。
それに俺だけじゃなくて、おもちにも聞こうと思っていた。
言葉が通じなくとも、俺たちは一心同体。だが、この御崎がありえないというなら断るしか——。
「最高の条件。契約しない理由が一つも見当たらない」
「……へ? そっち?」
「全部に隈なく特約が盛り込んであるけど、それも私たちのためにしかならないし、違反金もない。おもちちゃんの保険だって付いてくるみたい」
「嘘だろ……見せてくれ」
重要な項目には、御崎がわかりやすく赤ペンでチェックしてくれている。やはり仕事ができる。
俺もざっと目を通してみたが、彼女が言うのならば間違いないのだろう。
配信は自由にできるし、なおかつ新作フードも無料で提供もされる。ただ、当然スポンサーとしての、魔物フードの紹介を定期的にしてほしいらしい。
その代わり、最高級の魔物保険にも入れる。文句のつけようがない。
「これは凄いな……おもち、フードは美味しいか?」
「キュウキュウ!」
もっと食べたいらしい。これはもう……決まりかもしれない。
俺は御崎に視線を向けたが、同じ気持ちだとすぐわかった。
「よし、おもち。俺たちにスポンサーが付いたぞ!」
「キュウ!」
「ふふふ、じゃあこれからは3人で頑張りましょうね。おもっちゃんっ」
そうして俺たちは会社を退職後、すぐに良いスタートを切ったのだった。
ちなみに余談だが、あの後、会社はかなり大変なことになったらしい。
更に社長《バカ》の使い込みが発覚、経理のほうから詰められ、株主からも責められ刑事告発にまで発展しているそうだ。
これが俗にいう『ざまあ』ってやつか。
まあ、今はもうどうでもいいが。
◇
数日後、無事に契約も終えたことで、大和会社から新発売の『ちゅおチューオ』が届いた。
どろり濃厚ササミ味、魔力も補給できる優れもの。
ただ、人間が食べすぎるとお腹を壊すらしい。
「お久しぶりです。色々あって配信が遅くなってすみません」
久しぶりの生配信。お腹は少し痛いが、なんとか我慢できている。
御崎はお休みだ。会社を辞めたことを実家に説明しにいくので、泊まって帰るとのこと。
つまり俺とおもち、伝説のコンビの復活だ!
『ミサキちゃんは?』『なんだ、主の回か……』『ええい、おもちはまだか!』『おもち、おもち、おもち! 嘘、主も好きだよ』
どうやら俺より二人のほうが人気らしい。ぐすん、悔しい……。
しかし視聴者の望みを応えるべく、すぐにおもちを呼んだ。
「キュウー!」
段々とおもちもこなれている気がする。羽根は手みたいに動いてるし、人間味もある。
日に日に賢くなってるな。来年には俺がおもちのアシスタントになってるかもしれない。
……いや、今もそうか?
「今日は実は皆さんにお知らせがあります。なんとなんとあの有名大和会社から、新発売の改良型『ちゅおチューオ』を頂きました」
『まじ!? 買おうと思ってたから気になる』『改良型か。うちの魔物に買うか悩んでるんだよね。味のレポ頼む』『おもちなら信用できる!』
案件動画ということもあって、もしかしたら嫌がるかもしれないと思ったが、コメントに一切否定的なのはなかった。
それだけ『ちゅおチューオ』、果ては大和会社が人気だということもあるだろう。
「ではさっそくですが、おもちに食べてもらおうと思います」
丁寧に袋から取り出し、先っちょをハサミで切る。
にゅるっと飛び出してきたのを皿にとりわけ、食べやすいようにおもちの高さに合わせた。
「キュキュ! キュウー!」
一気にテンションはマックス。
びっくりするぐらい美味しそうに食べ続け、さらにコメントが増える。
『テンションあがりすぎw』『キマってねえか!? そんないい匂いなんだ』『おもち嬉しそう。それっていくらするの?』
俺はそれから、値段、発売日、成分表を紹介した。その間も、おもちは美味しそうに皿まで舐めている。
フェニックスは意外にも表情が豊かで、喜怒哀楽もある。
今は本当に幸せそうだ。
ちなみに、ASMR用のマイクをおもちに装着していた。これは御崎の案だ。
最初は何か知らなかったが、彼女のおかげで俺の配信レベルもアップデートしている。
『癒されるンゴ』『おもちの食べっぷりいいね。俺も食べてみたい』『うちの魔物が画面舐めはじめたんだがw』『持ち運びも良さそうだね』
ちなみに人間も食べられると説明しておいた。ただ、食べ過ぎるとお腹を壊すと、自分の腹をさすりながら説明した。
あと、味はいけるゾ。
『ゆうて食べるやつはおらんだろw』『流石にそれは心配しすぎw』『もしかして主の体験談?』『お腹触ってない?』
ちなみにこのあたりのコメントは、スルーしといた。
そうして紹介が終わると、おもちは魔力の補充を終えたのか炎をメラメラと強く漲らせた。
フードのパワーもあるだろうが、魔力が強くなっている気がする。
『おもち強そう』『ダンジョンとかいかないの?』『正直、伝説級の魔物が戦う所を見てみたい』
ちなみにダンジョンに関してのコメントは多い。それについては御崎について調べてもらっている。
今後のお金の面でも、情報面でも必要だろう。
「よし、おもち新技いくぞ!」
『新技?』『何が見れる?w』『炎のブレスか!? 主、死ぬぞwww』『またあれ見たいww』
「キュウ!」
そしておもちは、綺麗な羽根をバサリと広げて、俺の手に重ねた。
「おて!」
「キュ!」
そう——『お手』だ。
犬や猫でお手は見たことあるだろうが、おもちはフェニックス。
これは前代未聞、世界初だ。しかし、どうだ……?
『かわいい……』『おもち、既に主のIQを超えた模様』『実はこれおもちがお手をしてるとみせかけて、主が“させられてる”んだよね』
『賢すぎるw』『ワイもおもちを飼いたい』
思った反応と違うのもあるが、可愛いというコメントが多い。良かった。
おもちと練習を重ねたかいがあった。
そうして動画は締めに。
「では新発売の改良型『ちゅおチューオ』でした。是非皆さん買ってください! リンクを貼っておきます!」
手を振る俺。おもちも手を振る。
『日に日に仲良くなっとるw』『おやすみおもち!』『おつ! 絶対買います!』『買占め禁止、転売禁止の文言もつけといてね』
『パッケージにおもち載せてほしい』『お疲れ様でした』