「御崎、何してんだ……」
「えへへ、お邪魔してーまーす!」
「キュウー!」
いつのまにおもちと仲良くなった? というか——。
「どうやって家に入った? 鍵、閉まってただろ」
「さあて、どうしてでしょーかー?」
「って、お前、酒飲みすぎだ……」
「飲まなきゃやってらんねえってよお! もう!」
地面には、いくつもの酒瓶が転がっていた。普段は飲まないはずだが、何かあったな……。
「とりあえず、片付けるぞ。後、おもちに酒は飲ませてないだろうな?」
「そんなのしないよおー、あなた、おもちゃんって言うんだ。かわいいねー♪」
「キュウキュウ♪」
チータラを美味しそうに頬張るおもち。何か、何だこの気持ち、もしかして、嫉妬《ジェラシー》!?
なんだか知らないが、NTRた気分だ。
俺のおもちをよくも!
「おもち、うどんあるぞ!」
「キュウ!」
「しかもたっぷりだ! かけうどんも、ざるうどんも、なんだったら野菜うどんも作れる!」
「キュウキュウ!」
ふふふ、勝ったな。……なんて、ご飯で釣ってるだけだが……。
正直、御崎がおもちと仲良くなっている姿は嬉しかった。
もし俺に何かあった場合、彼女ならなんとかしてくれるだろう。
「おもちゃーん、チーズだよお」
「キュウキュウ♪」
とはいえ、勝手に家に入るのは違うな。
◇
「で、聞かせてもらおうか。何があった? んで、どうやって入ったんだ?」
おもちにうどんを大量にあげた後、御崎に問い詰める。
水をあげたのでようやくアルコールが抜けてきているみたいだ。
「頭痛い……前に言ってなかったっけ? 私の魔法スキル。体調で増減はあるけど、半径数メートルなら、自由に物を動かしたりできるの」
「それで鍵を開けたのか?」
「そうだけど、ちゃんと閉めといたでしょ? 変な人が来ないようにね」
「変な人はもう侵入してるけどな」
「どこに?」
「わからないならいいです」
「ホラーみたいなこと言わないでよ。おもちゃんが怖がるでしょー」
「おもちちゃんな」
そういえば驚いた。社長《あいつ》も御崎がスキル持ちだといっていたが、そんな超能力みたいな魔法だったとは。
炎耐性(極)の俺なんかより随分と使い勝手も良さそうで羨ましい。
「でも理由にはなってないぞ。何でここに来た?」
「……知りたい?」
「当たり前だ」
「はあ……社長から電話があったのよ。お前のスキルで、ダンジョンの護衛を務めろーって、じゃないとクビだって」
「はあ? あのバカ社長まじか……」
ダンジョンというのは一攫千金の夢があるが、相応の危険を伴う。
今でこそ攻略情報や戦闘訓練に覚えがある人も多いが、最初は死人が絶えなかった。
そんな危険な場所に、御崎を行かせるだと?
「で、なんて答えたんだ? まさかお前、行くつもりか?」
「だってクビになるかもしれないし、仕方ないじゃん。死ぬ前に阿鳥の顔、見ておこうと思って」
「……俺はともかく、御崎はクビなんか痛くも痒くもないだろ。天秤にかける必要すらない。もうこの会社を辞めたほうがいい」
「ふーん、じゃあ私が会社からいなくなっていいの?」
「いやその……会社の戦力としては困るが……」
「バカ!」
「な、なんだよ!?」
酒瓶を投げてくる御崎。見事にキャッチしたが、とてつもなく危ない。
なんで怒られるんだ……。
「そんなこと聞いてない! 戦力とか乙女に言わないで!」
「はあ? なんだよまったく……」
「おもちゃん、男はねええバカだよお、駄目よ、あんな人になったらあ」
「キュウ?」
おもちに変なことを吹き込むな、と思ったが、御崎が危険な目に合うのは嫌だ。
さすがに潮時かもしれないな……。
「御崎、お前、動画ソフトとか編集とか得意だったよな? 会社でも担当してただろ?」
「はい? 何の話?」
「いいから、答えてくれ」
「もちろんそれなりにできるけど」
「よし。御崎、俺と一緒に配信者にならないか?」
「……はい?」
◇
「は、初めまして、ミサキです。そして、おもっちゃんの登場でーーす!」
少しぎこちない笑顔の御崎。
俺はカメラを片手に、彼女を撮影していた。
その横からテクテクと歩いてくるのは、我らがヒーローおもちだ。
生配信だが、前回バズったこともあって、コメントもすぐに増える。
『あれ、主がTSした?』『誰この人? 美人すぎるんだが』『おもちが擬人化したかと思ったら違うかった』
まだ困惑気味だ。けれども、次第に肯定的なコメントが増えていく。
とにかく、御崎が可愛いらしい。
『美人×もふもふ×最強』『これは神配信の予感』『全裸待機中』
「ではこれから、私とおもっちゃんで芸を披露します!」
「キュウー!」
御崎は魔法スキル『動かしてあげる《サイコキネシス》』を発動。
おもちのために買った輪投げのおもちゃが空中に浮かび、コメントが更に加速する。
『すげえ、なにこれスキル?』『美女×おもち×魔法=最強』『もしかしておもち、お前くぐるのか?』
何をするのか気付いている人もいるらしい。
といっても、家の中は狭いのでおもちには小さく羽ばたいてくれとお願いしている。
しかしテンションの上がったおもちは、思い切り羽ばたきはじめる。
「キュウー!」
「いくよ、おもっちゃん!」
御崎も呼応し、家の中は羽根と物がまき散らされる。しかし壊れそうなものは御崎がスキルで持ち上げてくれているので、それも空中に浮いていた。
次の瞬間、おもちは輪投げの輪の中にするすると入っていく。一つ、二つ、三つ!
『おもち天才すぎるw』『うちのペットにおもちをください。そして嫁にミサキをください』『おもちちゃんの羽根のプレゼント企画まだ?』『かわいすぎるううう』『賢い。頭を撫でたい』
次第に俺も見たことがない動きをしはじめた。
くるくると回転したり、お手をしたり、なんだったらジェントルマンみたいに羽根をさっと広げたりする。
「おもっちゃん、可愛いねえ」
『紳士的なおもちに乾杯』『これからはミサキとおもちの日常チャンネルでお願いします』『主も好きぞ。出てくれ』
最後に御崎がコメントに反応、俺が持っていたスマホを念動力《サイコキネシス》で持ち上げる。
「ほら、3人で撮ろうよ」「キュウキュウ」
二人に呼ばれたので、俺も前に出ることに。
『これが後に勇者パーティーになるってマ?』『主の彼女? 嫁?』『ほんわかしてて良き』
「えー、彼女はこれから俺の動画撮影のアシスタントをしてくれることになりました。宜しくお願いします」
「えええと、宜しくお願いしまーす!」
最後にテンションの上がった御崎は、おもちにとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、おもっちゃん、この空き缶に向かって炎のブレス!」
「キュウーーー!」
了解っ、というテンションで、口を開ける。いや、なに? え、炎のブレスってなに? そんなのあったっけ?
瞬間、俺の記憶にあのオークの出来事が蘇る。
どでかい腹に穴が空いて、一撃でオークが絶命した——攻撃。
まずい——っ!
「キュウウウウウウウウウ」
凄まじい速度と光が、空き缶を狙って発射される。そのブレスは鋭く、高魔力の炎に包まれていた。
真面に食らえば、この家、そして御崎も危険だ。
俺は炎耐性スキルを極限まで向上させると、家と彼女を守るためにブレスを身体で受け止める。
弾き飛ばされつつも、炎耐性(極)のおかげで事なきを得る。
「ぐ……おもち、家の中でブレスは禁止だ……」
「あらー、おもっちゃん、やりすぎちゃいましたねー」
「キュウ……」
『主が死んだwwwww』『なにこの映像www』『くそわろたwwwwww』
『炎耐性があってもこの威力、おもち最強説』『過去一わろた。収益化はよ』『これは伝説の動画www』
『破壊力えぐすぎる』『おもち、もう一発だ!』『攻撃、攻撃、攻撃!』
だが……コメントは大盛り上がりのようだ。俺の体調を気遣ってくれるやつがいないのは気になるが、配信者冥利に尽きる……な……。
「それじゃあ次回も宜しくお願いします。ばいばーい」
「キュイキュイー!」
御崎とおもちは、二人で手を振る。
俺は倒れながら手を挙げた。
『さよならwww 主www 来世でもよろしくww』『異世界転生〜おもちの攻撃を受けた俺は、来世でまったり生きます』
『最高だったw おもち可愛すぎ、ミサキ綺麗すぎ、主カワイソスギ』『次もまた楽しみにしています。ありがとうございました!』
『いい最終回でした』
はい、ありがとうござい……ました……。
「えへへ、お邪魔してーまーす!」
「キュウー!」
いつのまにおもちと仲良くなった? というか——。
「どうやって家に入った? 鍵、閉まってただろ」
「さあて、どうしてでしょーかー?」
「って、お前、酒飲みすぎだ……」
「飲まなきゃやってらんねえってよお! もう!」
地面には、いくつもの酒瓶が転がっていた。普段は飲まないはずだが、何かあったな……。
「とりあえず、片付けるぞ。後、おもちに酒は飲ませてないだろうな?」
「そんなのしないよおー、あなた、おもちゃんって言うんだ。かわいいねー♪」
「キュウキュウ♪」
チータラを美味しそうに頬張るおもち。何か、何だこの気持ち、もしかして、嫉妬《ジェラシー》!?
なんだか知らないが、NTRた気分だ。
俺のおもちをよくも!
「おもち、うどんあるぞ!」
「キュウ!」
「しかもたっぷりだ! かけうどんも、ざるうどんも、なんだったら野菜うどんも作れる!」
「キュウキュウ!」
ふふふ、勝ったな。……なんて、ご飯で釣ってるだけだが……。
正直、御崎がおもちと仲良くなっている姿は嬉しかった。
もし俺に何かあった場合、彼女ならなんとかしてくれるだろう。
「おもちゃーん、チーズだよお」
「キュウキュウ♪」
とはいえ、勝手に家に入るのは違うな。
◇
「で、聞かせてもらおうか。何があった? んで、どうやって入ったんだ?」
おもちにうどんを大量にあげた後、御崎に問い詰める。
水をあげたのでようやくアルコールが抜けてきているみたいだ。
「頭痛い……前に言ってなかったっけ? 私の魔法スキル。体調で増減はあるけど、半径数メートルなら、自由に物を動かしたりできるの」
「それで鍵を開けたのか?」
「そうだけど、ちゃんと閉めといたでしょ? 変な人が来ないようにね」
「変な人はもう侵入してるけどな」
「どこに?」
「わからないならいいです」
「ホラーみたいなこと言わないでよ。おもちゃんが怖がるでしょー」
「おもちちゃんな」
そういえば驚いた。社長《あいつ》も御崎がスキル持ちだといっていたが、そんな超能力みたいな魔法だったとは。
炎耐性(極)の俺なんかより随分と使い勝手も良さそうで羨ましい。
「でも理由にはなってないぞ。何でここに来た?」
「……知りたい?」
「当たり前だ」
「はあ……社長から電話があったのよ。お前のスキルで、ダンジョンの護衛を務めろーって、じゃないとクビだって」
「はあ? あのバカ社長まじか……」
ダンジョンというのは一攫千金の夢があるが、相応の危険を伴う。
今でこそ攻略情報や戦闘訓練に覚えがある人も多いが、最初は死人が絶えなかった。
そんな危険な場所に、御崎を行かせるだと?
「で、なんて答えたんだ? まさかお前、行くつもりか?」
「だってクビになるかもしれないし、仕方ないじゃん。死ぬ前に阿鳥の顔、見ておこうと思って」
「……俺はともかく、御崎はクビなんか痛くも痒くもないだろ。天秤にかける必要すらない。もうこの会社を辞めたほうがいい」
「ふーん、じゃあ私が会社からいなくなっていいの?」
「いやその……会社の戦力としては困るが……」
「バカ!」
「な、なんだよ!?」
酒瓶を投げてくる御崎。見事にキャッチしたが、とてつもなく危ない。
なんで怒られるんだ……。
「そんなこと聞いてない! 戦力とか乙女に言わないで!」
「はあ? なんだよまったく……」
「おもちゃん、男はねええバカだよお、駄目よ、あんな人になったらあ」
「キュウ?」
おもちに変なことを吹き込むな、と思ったが、御崎が危険な目に合うのは嫌だ。
さすがに潮時かもしれないな……。
「御崎、お前、動画ソフトとか編集とか得意だったよな? 会社でも担当してただろ?」
「はい? 何の話?」
「いいから、答えてくれ」
「もちろんそれなりにできるけど」
「よし。御崎、俺と一緒に配信者にならないか?」
「……はい?」
◇
「は、初めまして、ミサキです。そして、おもっちゃんの登場でーーす!」
少しぎこちない笑顔の御崎。
俺はカメラを片手に、彼女を撮影していた。
その横からテクテクと歩いてくるのは、我らがヒーローおもちだ。
生配信だが、前回バズったこともあって、コメントもすぐに増える。
『あれ、主がTSした?』『誰この人? 美人すぎるんだが』『おもちが擬人化したかと思ったら違うかった』
まだ困惑気味だ。けれども、次第に肯定的なコメントが増えていく。
とにかく、御崎が可愛いらしい。
『美人×もふもふ×最強』『これは神配信の予感』『全裸待機中』
「ではこれから、私とおもっちゃんで芸を披露します!」
「キュウー!」
御崎は魔法スキル『動かしてあげる《サイコキネシス》』を発動。
おもちのために買った輪投げのおもちゃが空中に浮かび、コメントが更に加速する。
『すげえ、なにこれスキル?』『美女×おもち×魔法=最強』『もしかしておもち、お前くぐるのか?』
何をするのか気付いている人もいるらしい。
といっても、家の中は狭いのでおもちには小さく羽ばたいてくれとお願いしている。
しかしテンションの上がったおもちは、思い切り羽ばたきはじめる。
「キュウー!」
「いくよ、おもっちゃん!」
御崎も呼応し、家の中は羽根と物がまき散らされる。しかし壊れそうなものは御崎がスキルで持ち上げてくれているので、それも空中に浮いていた。
次の瞬間、おもちは輪投げの輪の中にするすると入っていく。一つ、二つ、三つ!
『おもち天才すぎるw』『うちのペットにおもちをください。そして嫁にミサキをください』『おもちちゃんの羽根のプレゼント企画まだ?』『かわいすぎるううう』『賢い。頭を撫でたい』
次第に俺も見たことがない動きをしはじめた。
くるくると回転したり、お手をしたり、なんだったらジェントルマンみたいに羽根をさっと広げたりする。
「おもっちゃん、可愛いねえ」
『紳士的なおもちに乾杯』『これからはミサキとおもちの日常チャンネルでお願いします』『主も好きぞ。出てくれ』
最後に御崎がコメントに反応、俺が持っていたスマホを念動力《サイコキネシス》で持ち上げる。
「ほら、3人で撮ろうよ」「キュウキュウ」
二人に呼ばれたので、俺も前に出ることに。
『これが後に勇者パーティーになるってマ?』『主の彼女? 嫁?』『ほんわかしてて良き』
「えー、彼女はこれから俺の動画撮影のアシスタントをしてくれることになりました。宜しくお願いします」
「えええと、宜しくお願いしまーす!」
最後にテンションの上がった御崎は、おもちにとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、おもっちゃん、この空き缶に向かって炎のブレス!」
「キュウーーー!」
了解っ、というテンションで、口を開ける。いや、なに? え、炎のブレスってなに? そんなのあったっけ?
瞬間、俺の記憶にあのオークの出来事が蘇る。
どでかい腹に穴が空いて、一撃でオークが絶命した——攻撃。
まずい——っ!
「キュウウウウウウウウウ」
凄まじい速度と光が、空き缶を狙って発射される。そのブレスは鋭く、高魔力の炎に包まれていた。
真面に食らえば、この家、そして御崎も危険だ。
俺は炎耐性スキルを極限まで向上させると、家と彼女を守るためにブレスを身体で受け止める。
弾き飛ばされつつも、炎耐性(極)のおかげで事なきを得る。
「ぐ……おもち、家の中でブレスは禁止だ……」
「あらー、おもっちゃん、やりすぎちゃいましたねー」
「キュウ……」
『主が死んだwwwww』『なにこの映像www』『くそわろたwwwwww』
『炎耐性があってもこの威力、おもち最強説』『過去一わろた。収益化はよ』『これは伝説の動画www』
『破壊力えぐすぎる』『おもち、もう一発だ!』『攻撃、攻撃、攻撃!』
だが……コメントは大盛り上がりのようだ。俺の体調を気遣ってくれるやつがいないのは気になるが、配信者冥利に尽きる……な……。
「それじゃあ次回も宜しくお願いします。ばいばーい」
「キュイキュイー!」
御崎とおもちは、二人で手を振る。
俺は倒れながら手を挙げた。
『さよならwww 主www 来世でもよろしくww』『異世界転生〜おもちの攻撃を受けた俺は、来世でまったり生きます』
『最高だったw おもち可愛すぎ、ミサキ綺麗すぎ、主カワイソスギ』『次もまた楽しみにしています。ありがとうございました!』
『いい最終回でした』
はい、ありがとうござい……ました……。