「ぷぃにゅー」
「たどちゃん、魔物スルメが食べたいの?」
温泉あがり、俺たちは館内着に着替え、食事処のテーブルを囲っていた。
結局、英雄さんとゴブちゃんは見つからず、御崎はショックを受けていた。
ただ、同じ探索者ならばいつか会うだろうと慰めておいた。
「おもち、お腹は空いてるか?」
「キュウキュウ!」
机の上に置かれたメニューには、人間用と魔物用がそれぞれ記載されている。
「さすがマモワールド……ってか、すげえ豊富だな」
既に新作のちゅおチャールも載っている。ほかにはカリカリフードの魔物用、魔力補充が出来るジュースなど。
「御崎、決まったか? 俺はこのミノタウロスのバーガー風にする」
「んー、じゃあ私はオーガのステーキ風カツレツにしようかな」
注文は今どきのスマホで頼むスタイルだ。
ちなみにおもちは、きつねうどんが良いらしく、大盛を頼んであげた。
田所はスルメとカレーらしい。どんな組み合わせだ?
注文を待っている間、今後のことについて話し合う。
「法人化の手続きは終わったから、税金関係は私のほうで処理しとく。とりあえず以前の魔石分は経費ってことでいい? もちろん、おもちゃん達の食費はそこから出す予定だけど」
「問題なし。今すぐに必要なものもないし、利益は後回しでいいよ。ただ、いつかは田舎ででかい一軒家を買いたいなあ。そこにおもちや田所と暮らして……ゲーム三昧! 最高だ……」
机に突っ伏しながら未来の妄想をしているとつい笑顔になった。
社畜のときに比べたら、今の生活はストレスフリーだ。けれども、夢を捨てることはしたくない。
「私は考えたこともなかったけど、そういうのも楽しそうね」
御崎は田所をひょいと持ち上げながら笑みを浮かべた。こうしてる時は、ほんとただの美人なんだよなあ。
てゆうか実際、今も周囲の男たちからもささやかれている。
「なあ、あの人めちゃくちゃ美人じゃないか?」
「すげえな……前の人にいるの彼氏か? いや、兄弟?」
「てか、フェニックスだよな? それになんだあの赤いスライム?」
どうやら俺のことは誰の眼中にないらしい。いいもんいいもん、俺は必殺技を思いついたんだがな! いつかびっくりさせてやるから!
◇
「こんにちは、アトリです。そしてミサキもいます」
「はーい、今ここはマモワールドからお送りしてまーす。おもちゃんとたどちゃんもいまーす」
『ミサキちゃんダッー!』『水着姿は!?』『デートとか羨まけしからん』
『マモワールドって噂の魔物と混浴が出来るところか』『施設が広いって聞いたことがある』
料理が届くと同時に、俺たちは生配信をはじめた。「温泉以外の施設内は配信が出来るらしいよ」と、御崎が言ってくれたのだ。
俺の新ネームに誰も反応してくれないのは悲しいが、すぐにコメントは埋まっていく。
「あと、前回のスライムが僕たちの仲間になってます。名前は『田所』決定しました」
「キュウ~!」
「ぷいにゅう?」
『おもちのお風呂上り感カワ(・∀・)イイ!!』『田所って何w』『共通点がなさすぎるw』『おもちと田所』『個性的だなw』
「え……たどちゃんってそんな変かな?」
御崎は悲し気に田所のほっぺをぷにぷに。
どちらも可愛いのでコメントは大盛り上がり、名前はまあ……言及しないでおこう。
「温泉には入って来たので、今からご飯を食べるところです」
御崎に料理を映してもらったあと、きつねうどんを食べるおもちを名いっぱい楽しんでもらう。
もちろん、田所のスルメをしゃぶりつくす姿もだ。
『癒される~~~』『飯テロ』『おもちの食べっぷりはいつもいいね』『田所から哀愁を感じるw』
その時、チャット欄の右上に見たこともない赤いコメントが表示された。
10000円と書いている。
「いちまんえん……?」
『太客だ』『初スパチャ?』『盛 り 上 が っ て ま い り ま し た』
直後、これはスパチャだと思い出す。
先日無事に収益化の審査が通ったので、出来るようになったのだ。
所謂、投げ銭というやつだ。
「ええと、『USM』さん、初スパチャありがとうございます! コメントは『おもちと田所が欲しい』ですか? そう言ってもらえると、二人も嬉しいと思います!」
短めだったが、実に好意的なコメントだった。
手に入れたくなるほど可愛いのは、俺だってわかる。猫とか犬の動画を見ているとそんなコメントばかりだもんな。
しかし驚いたことに、再びスパチャが送られてくる。
またもや『USM』だ。
次は、御崎が読み上げる。
「『USM』さん、『おもちがかわいい』ですね! 確かに可愛いですよね。でも、たどちゃんも――」
10000円『たどちゃんもcute』『USM』
10000円『触りたい』『USM』
10000円『モフりたい』『USM』
50000円『揉みたい』『USM』
続くスパチャに、流石に焦り始める。最後はなんと5万円だ。
コメントも驚きを隠せないらしく、『USM』について話題は持ちきりに。
「キュウキュウー?」
「ぷいにゅっ!」
二人が画面いっぱいに映ると、更にスパチャは加速。一般コメントも『USMやばすぎw』『これはパトロン』『石油王かな?』
と、興奮気味だ。
しかし突然、『待っててね』と、最後のコメントで唐突に終わる。一体どういう意味かわからなかったが、ひとまず大成功だ。
「おもちの可愛さは世界共通かもしれないな」
「キュウキュウ♪」
――――
――
―
「それでは配信を終わります。突発だったけど、集まってくれてありがとうございました」
「はーい、皆さん、またねー!」
俺たちに続いて、おもちと田所が手も振る。
田所は手を擬態してリアルな感じで振っている。いやそれ怖いぞ!?
『お疲れ様でした。まさか、魔物カラオケ大会を見れるとは思いませんでしたw』『良い物を見せてもらったぞ、アトリ! ミサキ!』
『おもちのコブシの聞いた歌が、今も心に染みわたってる』『田所DJが最高だった』
結局あの後、魔物カラオケ大会が始まって配信は大盛り上がりだった。
おもちと田所の歌は多くの人々を魅了し、スカウトまでされてしまった。もしかしたら、来年は黒白歌合戦に出てるかもしれないな。
「さて、帰ろっか! 今日もいい日だったね」
「そうだな。こういう日がずっと続けば最高だな」
俺はおもちを抱き抱え、御崎は田所を抱き抱えた。
こうして俺たちの人生初のマモワールドは、笑顔溢れる一日となったのだった。
ただ一つ気になるのは、『USM』って、なんかの略称な気がするんだよなあ……。
「たどちゃん、魔物スルメが食べたいの?」
温泉あがり、俺たちは館内着に着替え、食事処のテーブルを囲っていた。
結局、英雄さんとゴブちゃんは見つからず、御崎はショックを受けていた。
ただ、同じ探索者ならばいつか会うだろうと慰めておいた。
「おもち、お腹は空いてるか?」
「キュウキュウ!」
机の上に置かれたメニューには、人間用と魔物用がそれぞれ記載されている。
「さすがマモワールド……ってか、すげえ豊富だな」
既に新作のちゅおチャールも載っている。ほかにはカリカリフードの魔物用、魔力補充が出来るジュースなど。
「御崎、決まったか? 俺はこのミノタウロスのバーガー風にする」
「んー、じゃあ私はオーガのステーキ風カツレツにしようかな」
注文は今どきのスマホで頼むスタイルだ。
ちなみにおもちは、きつねうどんが良いらしく、大盛を頼んであげた。
田所はスルメとカレーらしい。どんな組み合わせだ?
注文を待っている間、今後のことについて話し合う。
「法人化の手続きは終わったから、税金関係は私のほうで処理しとく。とりあえず以前の魔石分は経費ってことでいい? もちろん、おもちゃん達の食費はそこから出す予定だけど」
「問題なし。今すぐに必要なものもないし、利益は後回しでいいよ。ただ、いつかは田舎ででかい一軒家を買いたいなあ。そこにおもちや田所と暮らして……ゲーム三昧! 最高だ……」
机に突っ伏しながら未来の妄想をしているとつい笑顔になった。
社畜のときに比べたら、今の生活はストレスフリーだ。けれども、夢を捨てることはしたくない。
「私は考えたこともなかったけど、そういうのも楽しそうね」
御崎は田所をひょいと持ち上げながら笑みを浮かべた。こうしてる時は、ほんとただの美人なんだよなあ。
てゆうか実際、今も周囲の男たちからもささやかれている。
「なあ、あの人めちゃくちゃ美人じゃないか?」
「すげえな……前の人にいるの彼氏か? いや、兄弟?」
「てか、フェニックスだよな? それになんだあの赤いスライム?」
どうやら俺のことは誰の眼中にないらしい。いいもんいいもん、俺は必殺技を思いついたんだがな! いつかびっくりさせてやるから!
◇
「こんにちは、アトリです。そしてミサキもいます」
「はーい、今ここはマモワールドからお送りしてまーす。おもちゃんとたどちゃんもいまーす」
『ミサキちゃんダッー!』『水着姿は!?』『デートとか羨まけしからん』
『マモワールドって噂の魔物と混浴が出来るところか』『施設が広いって聞いたことがある』
料理が届くと同時に、俺たちは生配信をはじめた。「温泉以外の施設内は配信が出来るらしいよ」と、御崎が言ってくれたのだ。
俺の新ネームに誰も反応してくれないのは悲しいが、すぐにコメントは埋まっていく。
「あと、前回のスライムが僕たちの仲間になってます。名前は『田所』決定しました」
「キュウ~!」
「ぷいにゅう?」
『おもちのお風呂上り感カワ(・∀・)イイ!!』『田所って何w』『共通点がなさすぎるw』『おもちと田所』『個性的だなw』
「え……たどちゃんってそんな変かな?」
御崎は悲し気に田所のほっぺをぷにぷに。
どちらも可愛いのでコメントは大盛り上がり、名前はまあ……言及しないでおこう。
「温泉には入って来たので、今からご飯を食べるところです」
御崎に料理を映してもらったあと、きつねうどんを食べるおもちを名いっぱい楽しんでもらう。
もちろん、田所のスルメをしゃぶりつくす姿もだ。
『癒される~~~』『飯テロ』『おもちの食べっぷりはいつもいいね』『田所から哀愁を感じるw』
その時、チャット欄の右上に見たこともない赤いコメントが表示された。
10000円と書いている。
「いちまんえん……?」
『太客だ』『初スパチャ?』『盛 り 上 が っ て ま い り ま し た』
直後、これはスパチャだと思い出す。
先日無事に収益化の審査が通ったので、出来るようになったのだ。
所謂、投げ銭というやつだ。
「ええと、『USM』さん、初スパチャありがとうございます! コメントは『おもちと田所が欲しい』ですか? そう言ってもらえると、二人も嬉しいと思います!」
短めだったが、実に好意的なコメントだった。
手に入れたくなるほど可愛いのは、俺だってわかる。猫とか犬の動画を見ているとそんなコメントばかりだもんな。
しかし驚いたことに、再びスパチャが送られてくる。
またもや『USM』だ。
次は、御崎が読み上げる。
「『USM』さん、『おもちがかわいい』ですね! 確かに可愛いですよね。でも、たどちゃんも――」
10000円『たどちゃんもcute』『USM』
10000円『触りたい』『USM』
10000円『モフりたい』『USM』
50000円『揉みたい』『USM』
続くスパチャに、流石に焦り始める。最後はなんと5万円だ。
コメントも驚きを隠せないらしく、『USM』について話題は持ちきりに。
「キュウキュウー?」
「ぷいにゅっ!」
二人が画面いっぱいに映ると、更にスパチャは加速。一般コメントも『USMやばすぎw』『これはパトロン』『石油王かな?』
と、興奮気味だ。
しかし突然、『待っててね』と、最後のコメントで唐突に終わる。一体どういう意味かわからなかったが、ひとまず大成功だ。
「おもちの可愛さは世界共通かもしれないな」
「キュウキュウ♪」
――――
――
―
「それでは配信を終わります。突発だったけど、集まってくれてありがとうございました」
「はーい、皆さん、またねー!」
俺たちに続いて、おもちと田所が手も振る。
田所は手を擬態してリアルな感じで振っている。いやそれ怖いぞ!?
『お疲れ様でした。まさか、魔物カラオケ大会を見れるとは思いませんでしたw』『良い物を見せてもらったぞ、アトリ! ミサキ!』
『おもちのコブシの聞いた歌が、今も心に染みわたってる』『田所DJが最高だった』
結局あの後、魔物カラオケ大会が始まって配信は大盛り上がりだった。
おもちと田所の歌は多くの人々を魅了し、スカウトまでされてしまった。もしかしたら、来年は黒白歌合戦に出てるかもしれないな。
「さて、帰ろっか! 今日もいい日だったね」
「そうだな。こういう日がずっと続けば最高だな」
俺はおもちを抱き抱え、御崎は田所を抱き抱えた。
こうして俺たちの人生初のマモワールドは、笑顔溢れる一日となったのだった。
ただ一つ気になるのは、『USM』って、なんかの略称な気がするんだよなあ……。