雨の音が聞こえる。校庭は白く煙っていた。
 昼休みで騒がしいはずなのに、ここだけ取り残されたみたいに静かだ。七威の声が、言葉が。空気を震わせ、僕の耳に届く。
「俺、体育祭でエッセイのこと、結都ちゃんに話したよね」
 これ、と七威が僕にスマホの画面を見せた。学校のHPに載せている生徒会新聞の最終面だった。下段の端、日付は去年。

【No music,No life.】
 音楽はストレスを解消し免疫力を高める効果があるらしい。古代エジプト人は「魂の薬」と呼んでいた。大昔から人々を癒してきた歴史があるのだ。
 先日、おすすめ動画にCATSの「Memory」が表示された。美しかった思い出と今の自分に虚しさを感じつつも、新しい夜明けに希望を見出す猫の歌だ。
 明日が来ることは幸せか、不幸か。夜明けに何を感じるかは人それぞれだ。
 いまの自分はどうだろう。
 安心して眠る場所があり、朝を迎え目覚める。起き上がる。手足が動く。息をしてる。ひとりじゃない。家族や友人がいる(そばにいなくても存在している)。これを当たり前と思うか、奇跡と思うかで世界が変わる。
 天災や戦争に巻き込まれれば、命が振り分けられる。生か死か。明日を迎えられる人と迎えられない人、その命の振り分けを行ってるのは誰か知らない。僕はいま「生」のほうにいて、健康で、美味しいものが食べられる。電気もガスも水道もいつも通り。
 だから暴れん坊の飼い猫が花瓶を倒し絨毯に水をぶちまけようと、お気に入りのTシャツに爪を立て布団代わりにしようと、決して怒ったりしない(大嘘)。
 多少思い通りにならなくても、人生が終わるわけじゃない。負けても、報われなくても。誰かを恨みたくなるようなどん底でも。僕は信じていたい。
 明日はいいことがあるだろう。それがただ、いつもの場所で好きな曲を聴くだけの些細な時間だったとしても。
 No music, No life. 人生を彩り、豊かにするもの。
 そんなこんなで、今日も僕は大好きな音楽を楽しんでいる。(Y.M)