生徒会のミーティングを終え解散した後、のどが渇いて一階に下りた。炭酸が飲みたい。
七威、来るかな。会いたくないな。資料の片づけやめようか。それならコーラもいらないな。通路に何台も並んだ自販機の前で立ち止まる。
「何飲むか迷ってる? 俺、コーラが飲みたいな」
背後で声がしてびくりとした。振り向くと七威だった。
「なんでここに」
「後ろ姿見かけて」
「何しに来たんだよ」
「もちろん企画書の……あれ、なんか怒ってる?」
「別に」
「俺だけライブに行ったから? でもFFAじゃないよ」
「そんなのどうでもいい」
僕は踵を返した。今日はだめだ。このままだと八つ当たりしてしまう。
「待ってよ」
「もう帰る。今度にして」
「えー」
「っていうか、ひとりでできるよね」
「一緒にやろうよ」
もう巻き込まないでほしい。無視して廊下を歩き出した。僕は七威専属の執行部員じゃないんだ。
「待ってよ、結都ちゃん」
僕を追い越し七威が行く手を遮った。
「ねえって。無視しないでよ。それが一番堪える」
「な……にそれ。僕なんか気にすることないだろ。ほかに友達いるんだから」
僕なんかかまわないで、そっちに行けばいいじゃないか。
「弱ったとこ、見せられないじゃん」
「ほかの友達には見せられるのに?」
「あいつらは何も知らない。何も話してない。ただバカ騒ぎするだけの相手だよ」
七威のカテゴリー基準がどうだろうと、あの日僕は必要とされなかった。そういうことだ。
「もういいよ。それぞれの過ごし方があるんだし。好きにしなよ。僕に気を使わなくていい。つまりもう連絡してこないで」
思ったことをはっきり言って、胸の燻りが消えすっきりした。爽快ですらあった。僕は七威の横をすり抜け足早に立ち去った。振り向きもしなかった。
そしてすぐ、とてつもない自己嫌悪に陥った。どす黒い影が胸の奥で渦巻く。重い。苦しい。
連絡するなと言いながら、待ってる自分があまりに愚かしく、嫌だった。
*
放課後、立ち寄った生徒会室は無人だった。鍵が開いたままで、誰か席を外しているようだ。
連絡箱をのぞくと、生徒会新聞のゲラが戻ってきていた。ミニエッセイに花丸がついてる。会長の遊び心を感じて和んだ。赤入れ部分を修正して印刷に回そう。
エッセイは花丸をもらえたけど、ここ数日引きずった気分までは晴れない。
七威と過ごすようになって楽しかった。それ以上に苦しいことが増えた。たぶん、世界が違い過ぎる。友達として、お互い基準外なのかも。
「沓沢か。青山は来ないよ。人と会う約束があるって先に帰った」
戻って来たのは工藤先輩だった。
「なんで七威の予定を知ってるんですか」
「エントランスですれ違った時、電話してるのが聞こえた」
相手は誰だろう。クラスメイトなら電話せず直接話すよな。まさか木村さん……僕が七威と疎遠にしてる間に進展したとか。でも断ったはず。とすれば、ライブ仲間だろうか。なんの恨みもないが、いやな記憶と結びついて気が滅入る。
「誰と会うと思う?」
唐突に向けられた質問は、どこか意地悪に聞こえた。
「僕が知るわけないでしょう」
「気になる?」
「別に」
「そうか。なら、おれひとりで行くわ」
「どこにですか!」
思わせぶりな態度にイライラしながらも、とっさに食いついてしまった。
「青山と橘先輩の密会現場」
背中に、冷たいものが流れた。
七威、来るかな。会いたくないな。資料の片づけやめようか。それならコーラもいらないな。通路に何台も並んだ自販機の前で立ち止まる。
「何飲むか迷ってる? 俺、コーラが飲みたいな」
背後で声がしてびくりとした。振り向くと七威だった。
「なんでここに」
「後ろ姿見かけて」
「何しに来たんだよ」
「もちろん企画書の……あれ、なんか怒ってる?」
「別に」
「俺だけライブに行ったから? でもFFAじゃないよ」
「そんなのどうでもいい」
僕は踵を返した。今日はだめだ。このままだと八つ当たりしてしまう。
「待ってよ」
「もう帰る。今度にして」
「えー」
「っていうか、ひとりでできるよね」
「一緒にやろうよ」
もう巻き込まないでほしい。無視して廊下を歩き出した。僕は七威専属の執行部員じゃないんだ。
「待ってよ、結都ちゃん」
僕を追い越し七威が行く手を遮った。
「ねえって。無視しないでよ。それが一番堪える」
「な……にそれ。僕なんか気にすることないだろ。ほかに友達いるんだから」
僕なんかかまわないで、そっちに行けばいいじゃないか。
「弱ったとこ、見せられないじゃん」
「ほかの友達には見せられるのに?」
「あいつらは何も知らない。何も話してない。ただバカ騒ぎするだけの相手だよ」
七威のカテゴリー基準がどうだろうと、あの日僕は必要とされなかった。そういうことだ。
「もういいよ。それぞれの過ごし方があるんだし。好きにしなよ。僕に気を使わなくていい。つまりもう連絡してこないで」
思ったことをはっきり言って、胸の燻りが消えすっきりした。爽快ですらあった。僕は七威の横をすり抜け足早に立ち去った。振り向きもしなかった。
そしてすぐ、とてつもない自己嫌悪に陥った。どす黒い影が胸の奥で渦巻く。重い。苦しい。
連絡するなと言いながら、待ってる自分があまりに愚かしく、嫌だった。
*
放課後、立ち寄った生徒会室は無人だった。鍵が開いたままで、誰か席を外しているようだ。
連絡箱をのぞくと、生徒会新聞のゲラが戻ってきていた。ミニエッセイに花丸がついてる。会長の遊び心を感じて和んだ。赤入れ部分を修正して印刷に回そう。
エッセイは花丸をもらえたけど、ここ数日引きずった気分までは晴れない。
七威と過ごすようになって楽しかった。それ以上に苦しいことが増えた。たぶん、世界が違い過ぎる。友達として、お互い基準外なのかも。
「沓沢か。青山は来ないよ。人と会う約束があるって先に帰った」
戻って来たのは工藤先輩だった。
「なんで七威の予定を知ってるんですか」
「エントランスですれ違った時、電話してるのが聞こえた」
相手は誰だろう。クラスメイトなら電話せず直接話すよな。まさか木村さん……僕が七威と疎遠にしてる間に進展したとか。でも断ったはず。とすれば、ライブ仲間だろうか。なんの恨みもないが、いやな記憶と結びついて気が滅入る。
「誰と会うと思う?」
唐突に向けられた質問は、どこか意地悪に聞こえた。
「僕が知るわけないでしょう」
「気になる?」
「別に」
「そうか。なら、おれひとりで行くわ」
「どこにですか!」
思わせぶりな態度にイライラしながらも、とっさに食いついてしまった。
「青山と橘先輩の密会現場」
背中に、冷たいものが流れた。