「ほら、やっぱり全然ありじゃん」
「ねー、こんなにメンバーが嬉しすぎて固まってるなんてぇ……」
 ささらが隣で、真っ赤な顔をしてプルプル震えている。
 個人的には、ささらは可愛いんだよね。確かに雰囲気はクール系なんだけど、ギャップに萌えてしまうと思った。
「じゃあ、桃、お願い」
「おう!」
 私は猫撮影で磨かれたスキルを使い、ささらのきゃわわ姿を写真に収める。
「ちょ! やめ! やめてくれっ!」
「良いよー! その照れてる感じ、最高!」
「うわわあああん!」
「おっと、そんなヌルイ攻撃、余躱すの余裕だぜ。里央、そっちお願い」
「おまかせぇ!」
「うひゃぁぁぁ!」
「ちょっと、ささら、そんな真っ赤の涙目じゃ、エロ同人になっちゃうから。ちょっとは控えてよ……って、もしかして需要あるのかな?」
「えぇ、桃。そのデータ私にも頂戴。それスキャンしてモデルに当てはめたい」
「りょうかーい」
「うわぁぁぁん!」
 そうして、私たちは涙目のささらを上手く誘導しながら、可愛いポーズを撮っていく。
「ささらってボーイッシュでクールだけど、基本的に可愛いんだよね。スカートを穿かないし勿体ないって思ってた」
「そうそう~。私たちが何回言っても、全然穿いてくれなかったしぃ……」
「そうなんですね。私たちも見たことなかったです。でも、これは、すっごい可愛い……」
「うんうん! ギャップ萌え。もう可愛い。可愛いしか言葉に出ないっす!」
 日向子さんと里沙さんも、スマホで撮りまくり、ささらも途中から慣れたようで、私たちの要求に応え、勢いに流されていた。
 ワンピースから、もっと乙女チックなフリル付き衣装に替えたり、可愛いキャラが描かれたもふもふ部屋着にも着替えた。
 そうして、私と里央が満足したところで、一旦終了。
 ささらは魂を抜かれたかのように、床に大の字になっていた。
「いやぁ。やっぱり破壊力抜群だよねぇ~」
「ほんとね……むふふ。可愛い。ね、メンバーちゃん、こういうアプローチもしてみたら?」
 私と同じように写真を見てニヤニヤしている、日向子さんと里沙さんに話を向けた。
「ほら、毎回同じだと飽きるじゃない? こういう路線をやるのもありだと思うよ。同じようなファン層だけを獲得しようとすると限界早いし」
「な、なるほど……」
「と言っても、事務所の売り方もあるからね。一旦、相談してみるのもありだと思うけど……」
「いえ、はい! これ、良いと思います! リーシャ行こう、ちょっとマネージャーと話してみよう」
「えぇ!? これから!?」
「うん! ほら、サラが目覚める前にさっさと行こう」
「あ、そっか! 了解。すみません、じゃあ私たちはこれで!」
「そっか! 頑張れよー!」
 バタバタと去って行くメンバーちゃんを、私は手を振って見送った。
「でも、ささらぁ。案外、それイケるかもよ? 悩んでたんでしょぉ?」
 里央がささらに付き添っていた。
「恥ずかしがってるのは分かるけどぉ……でも、ささらのことだから、きっと本当はそっち方面がやりたかったんじゃないかなぁ?」
「え!? り、里央……どうして、それを……!」
 ガバッと起き上がったささらはプルプルしながら里央をガン見する。
「あぁ……やっぱり。年齢のこともあるし、封印してたのねぇ、きっと」
 よしよし、と里央はささらの頭を撫でる。
「やりたいことをやるために、仕事を辞めたんでしょ? どうして今さら、残った残骸にしがみつくの?」
「う……」
「欲しいものがあるなら、認めないと。そこからだよぉ」
 なでなで、と里央がささらの髪を撫でると、ささらは里央の胸にしがみついた。
「甘えっ子」
「……だって」
 ささらは美人で、強くて、ズバズバものを言うから、可愛気が無いって思われて。
 ほら、あんなに可愛いのにね。みんな、見る目が無いんだよ。
 ずっと苦しんで自分を誤魔化していたのに、ようやく素直になれた。自由になれた。でも、それでもまだ苦しんでいた。
「私は笑わない。アイドルでしょ? 誇りがあるんでしょ? ささらのことは何でも知ってる。だから、大丈夫だよぉ。私たちは味方だから。やりたいことあるなら、踏み出さなきゃ」
 里央は苦しんでいるささらの心を解き放っていく。
 私はそれを見て、自分の心をより解放することに決めた。