「全体的に売り上げが低迷ですか……」
 私はマネージャーの言葉を反芻する。
 地域に根付いたアイドルグループとして、若干の知名度はあるものの、そもそも非都市圏でのアイドル活動は現実的に厳しい。
 地下アイドルと桃には説明したが、まさにそうだ。だが、個人的には地下アイドルという言葉が大嫌いだった。
「言いにくいが、ファンも離れてきているようだ。チケットの売り上げが前回より十五パーセントほど落ちている」
 追い打ちの言葉で、私たちは溜め息を漏らした。
 やはり三十過ぎの私はもう無理なのだろうか。歌もダンスも自信はあったが、若い子には体力的に敵わなくなってきた。
「そもそも、どこを目指すのか。そこが曖昧なのかもね」
 事務所を出た帰り道、リーダーのヒナが言った。
 私より十歳年下だが、落ち着いており、バイタリティとリーダーシップに富んでいる子だ。
 長い黒髪と小さな顔、激しく躍動のあるダンス。力強い瞳が、見るものを圧倒する。我がアイドルグループのセンターでリーダーだ。
「一人でもお客さんが元気になってもらえれば、って思ってたけど……売り上げとかファン減少とか言われてショックを受けるのは、心の中で活動をもっと広げたいって思いがあるからよね」
 もう一人のメンバーである、リーシャが呟いた。
 リーシャは私よりも五歳年下で、黒髪のポニーテールをしている。王道のアイドルといった、ふんわりとした雰囲気だ。
「ああ。マネージャーもだからどうしろということは言わないが……いつの間にか現状に甘えていたのかもな……」
 そして、最後のメンバーである、私「サラ」が付け加えた。
「そうだね、事務所も割り切ってるだろうし……よし! じゃあ久々に”ラルム”会議をしようよ」
 リーダーのヒナがそう提案する。
「いいね! じゃあサラの家にゴー!」
「えぇ!? ちょ、今はうちの家は、ヤバくて――」
 私が言うよりも早く、二人はかけ出して、事務所から最も近い私のアパートへと駆け出して行った。
 走って追いかけるが若い二人に追いつけるはずも無く、はぁはぁと息を整えながらアパートの玄関前にたどり着いた。
「あはは、いつもこうだよね」
「そうそう、サラってば、いつも部屋に入れるの嫌がるからさぁ」
「男っ気ないくせに、男がいるような振りするから」
 違う! こいつらを部屋に入れると、部屋がめちゃくちゃになるんだ。
 ベッドの上で暴れるし、冷蔵庫は漁るし! 酒は飲み開けるし!
 だからいつも難色を示すんだが、どうやら思わせぶりと感じるらしく、馬鹿にしてくる。
 とにかく、今はあの二人がいるから難しい。
 そのことを説明しようとすると――
 ――ガタっ!
 私の部屋の中から物音が響いてしまった。
「え?」
「は?」
 ヒナとリーシャがジト目でこっちを見る。
「ちょっと、マジで男なの?」
「信じらんない。アイドルとしての自覚は無かったの?」
「違っ! だから、話を――」
 ――ガチャン!
「ささら! 帰ってきた!? あのさ、ここ――」
 勢い良く扉が開き、またもや話が途切れると、中から桃が転がり出てきた。