合格発表から数日後、唯人は勉強机の上を片付けていた。
受験生としての生活は終わったのだ。
もっと開放感に満ち満ちているかと思ったが、そんなことはない。
机の隅に置いたお守りを見つめる。
まだ海太郎への思いの正体を明海には伝えていないから、海太郎のものだから唯人にくれたんだろうか、と思ってしまう。
こんなとき、明美がそばにいたら、こういう疑問が形になる前に解消されただろうか。
離れているのに、甘えている。
唯人は両手で頬を軽く叩いた。
明海に連絡取るなって言ったから、弟を騙る強硬手段に出たのだろうに。
分からないなら聞くしかないのだ。
人の思いは変わるし、間違って捉えることだってある。もう待ってはいないかもしれないけど。
迷惑だって言われない限り、返事はしないと。
今日は土曜日で、日も暮れかかってるくらいだ。模試がある日で電源を落とし忘れていたとしても問題ない。
スマートフォンを取り出し、明美にSMSを送る。
『会いたい。今どこ?』
打ちこんだときは何とも思わなかったが、見返してみると。
こ、恋人みたいじゃないか……。
恥ずかしさから消えたくなったところで着信音が鳴った。
『模試があったので、高校を出たところです』
『びっくりしました。会うなら、あの駐車場がいいです』
『今行く!!』
史上最速で返信を打ち込み、お守りを掴む。
唯人はコートを羽織って駆け出した。
◆
傾いた日が眩しい。唯人は夕日に背を向けたものの、雪に反射した光はどうしようもなくて、目を細めた。
「合格おめでとうございます。唯人さん。あと、これお返しします」
駐車場で待っていた唯人の元へ来るなり、明海は満面の笑みを浮かべる。差し出して来たのは、前回の別れ際に唯人が渡した傘だ。ずっと持って歩いていたのかと呆れてしまう。
「俺、まだ何も言ってないよな」
「唯人さんに対してだけエスパーなので。イメトレで訓練積んどきました」
「なんだそれ」
傘をしまいながらも唯人の頬は勝手に緩む。
最近笑ってばかりだ。
「答え、もう貰ったような気で来たんですけど、何か聞きたいことはないですか?」
「あんまり甘やかすなよ」
唯人はお守りを見せた。
「これ、元々はカイのものだったんだろ」
「ああ。そうですね。海兄もおれもそれ持ってて合格したのでご利益があるかなって思って渡したんです。おれが持ってるものの中で、唯人さんに応援してるって伝えられるもの、他になかったんで」
気にしました? と付け加えることも忘れない。
唯人は、その場にしゃがみ込んだ。
脳内に国語辞典が一冊丸々入っていたとしても、思いを伝えることにおいては明海に勝てない気がする。
駐車場が静かだったことも気持ちを後押しした。
もうこうなればヤケだ。
「カイへの気持ちは憧れだった! カイにもそう伝えて来た。明海に対しての気持ちは、」
ぐい、と腕を引かれる。立ち上がった唯人は、明海の腕の中にいた。
「おれへの気持ちは?」
お互いコートを着ているが、前回よりもあたたかい。
顔が見えないようにしてくれたのは配慮だろうか。
「はつこい、です」
言葉が耳から戻って来ただけで燃えそうになる。明海は身体を離して、唯人の顔を正面に見据えた。色が移ってしまったように、顔が赤い。
「実は、おれも初恋です。唯人さん。おれのことちゃんと受け入れてくれてありがとうございます。大好きです」
受け入れてもらったのは俺の方なのに。
そのまま抱き締めようとする明海を制止し、自分から腕を回す。
一瞬固まった明海は、力を抜いて改めて唯人を優しく腕の中に閉じ込めた。
夕日が二人を祝福するように、あたたかな色に染め上げていた。
受験生としての生活は終わったのだ。
もっと開放感に満ち満ちているかと思ったが、そんなことはない。
机の隅に置いたお守りを見つめる。
まだ海太郎への思いの正体を明海には伝えていないから、海太郎のものだから唯人にくれたんだろうか、と思ってしまう。
こんなとき、明美がそばにいたら、こういう疑問が形になる前に解消されただろうか。
離れているのに、甘えている。
唯人は両手で頬を軽く叩いた。
明海に連絡取るなって言ったから、弟を騙る強硬手段に出たのだろうに。
分からないなら聞くしかないのだ。
人の思いは変わるし、間違って捉えることだってある。もう待ってはいないかもしれないけど。
迷惑だって言われない限り、返事はしないと。
今日は土曜日で、日も暮れかかってるくらいだ。模試がある日で電源を落とし忘れていたとしても問題ない。
スマートフォンを取り出し、明美にSMSを送る。
『会いたい。今どこ?』
打ちこんだときは何とも思わなかったが、見返してみると。
こ、恋人みたいじゃないか……。
恥ずかしさから消えたくなったところで着信音が鳴った。
『模試があったので、高校を出たところです』
『びっくりしました。会うなら、あの駐車場がいいです』
『今行く!!』
史上最速で返信を打ち込み、お守りを掴む。
唯人はコートを羽織って駆け出した。
◆
傾いた日が眩しい。唯人は夕日に背を向けたものの、雪に反射した光はどうしようもなくて、目を細めた。
「合格おめでとうございます。唯人さん。あと、これお返しします」
駐車場で待っていた唯人の元へ来るなり、明海は満面の笑みを浮かべる。差し出して来たのは、前回の別れ際に唯人が渡した傘だ。ずっと持って歩いていたのかと呆れてしまう。
「俺、まだ何も言ってないよな」
「唯人さんに対してだけエスパーなので。イメトレで訓練積んどきました」
「なんだそれ」
傘をしまいながらも唯人の頬は勝手に緩む。
最近笑ってばかりだ。
「答え、もう貰ったような気で来たんですけど、何か聞きたいことはないですか?」
「あんまり甘やかすなよ」
唯人はお守りを見せた。
「これ、元々はカイのものだったんだろ」
「ああ。そうですね。海兄もおれもそれ持ってて合格したのでご利益があるかなって思って渡したんです。おれが持ってるものの中で、唯人さんに応援してるって伝えられるもの、他になかったんで」
気にしました? と付け加えることも忘れない。
唯人は、その場にしゃがみ込んだ。
脳内に国語辞典が一冊丸々入っていたとしても、思いを伝えることにおいては明海に勝てない気がする。
駐車場が静かだったことも気持ちを後押しした。
もうこうなればヤケだ。
「カイへの気持ちは憧れだった! カイにもそう伝えて来た。明海に対しての気持ちは、」
ぐい、と腕を引かれる。立ち上がった唯人は、明海の腕の中にいた。
「おれへの気持ちは?」
お互いコートを着ているが、前回よりもあたたかい。
顔が見えないようにしてくれたのは配慮だろうか。
「はつこい、です」
言葉が耳から戻って来ただけで燃えそうになる。明海は身体を離して、唯人の顔を正面に見据えた。色が移ってしまったように、顔が赤い。
「実は、おれも初恋です。唯人さん。おれのことちゃんと受け入れてくれてありがとうございます。大好きです」
受け入れてもらったのは俺の方なのに。
そのまま抱き締めようとする明海を制止し、自分から腕を回す。
一瞬固まった明海は、力を抜いて改めて唯人を優しく腕の中に閉じ込めた。
夕日が二人を祝福するように、あたたかな色に染め上げていた。