センター試験が終わったら、あっという間。
先生たちの脅しだと思っていた言葉は、その通りだった。
ぐったりした体をベッドに横たえ、唯人は深い溜め息を吐いた。
今日、大学の二次試験が終わった。
唯人は一日だけでこんなに疲れるのに、二日間の日程の学生たちは明日には溶けているんじゃないだろうか。
結果が出るまではどうしようもないだけに、少し気持ちにゆとりが生まれる。
合格を聞くまで油断はできないが、今日くらいは勉強をサボってもいいかという気になった。
こんなに一つのことばっかり考えてたことなかったから、忘れてたけど。
唯人は、久し振りに心の底を覗く気になった。たくさんの「どうして」が浮かんでは消える中、強く残るものがある。
あの夏から抱えている抱えている疑問だ。
海太郎が直人を好きな気持ちは伝わった。これは嬉しい。
直人は海太郎の好きな人を探して、海太郎は恋を諦めずに済んだ。これも嬉しい。
もし海太郎の好きな人が直人でなかったとしたら、あの時点で直人は海太郎への思いなんて自覚していなかったのだから、祝福したと思う。
「問題なのは、二人が両想いになることだけ、だったんだよなあ」
声に出していたことに気づき、口を塞ぐ。
隣は直人の部屋だ。聞こえていないだろうか。
まあ、誰が、とは言っていないので気づかれはしないだろうけれど。
自分の中で過去の話になりつつあるのを感じ、今なら答えを出せるかもしれないと更に一歩踏み込むことにする。
二人が両想いになるのが嫌。だけど、海太郎の相手が直人でなければ祝福できた。
二人が恋人になることによって起こる変化、それも俺が嫌だと思うことってなんだ?
そもそも、あの時点で俺は海太郎のことが好きだったのに、どうして他の人との恋を祝福できるんだ?
思考が渦を巻き、出口を見失う。
この切り口からでは答えが出せないなら……。
顔が燃えるように熱くなる。
明海のことも海太郎のことも好きだが、明海に対してと海太郎に対しての気持ちが違うのは明らかだ。
じゃあ、その感情の名前は?
海太郎の直人を思うときの顔、明海の自分を見つめるときの顔を思い出す。
あれが、恋なら。
「恋じゃないか、これ……」
明海、と今心の中で名前を呼んで。
触れたいとか、会いたいとか思う。
明海が他の誰かに、この前の駐車場でのことを言っていたら嫌だと思う。
恥ずかしいけど、嬉しい。
心に浮かぶ言葉に一々体が熱を持つ。心もなんだかふわふわとする。
俺、直人のこと言えないかも。
唯人はしばらく余韻に浸り、熱が少し引いた時点で海太郎の顔を思い浮かべる。
海太郎が避けられたくはない、と思ったということはあの時点で唯人との関係を変えたいとは思ってなかったってことだよな。
それは今の唯人と同じだ。
だが、海太郎は直人との関係を変えることを望み、それに直人は応えた。唯人が避けさえしなければ唯人と海太郎の関係は変わらなかったのかもしれない。
でも、そうやって関係が変わって行くのが嫌だったってことは……。
考えつつ、関係という言葉がしっくりこない。
立ち位置、見えるもの、世界、居場所。言葉を連想ゲームのように繋いで辿り着く。これだ。居場所だ。
今までいた場所がなくなるのが嫌だったのだ。
さて、残るのは最後の問いだけになった。
ただの友情では収まらない、好き。
相手のここがいいなあ、こういう風になりたいなあ、と思う。
これをなんと言うのだろう。
「憧れ」
すとんと心が落ち着いた。
唯人はスマートフォンを手に取り、電話帳の中から名前を探し当てた。
メール、の方がいいよな。
改まって連絡したことがないので、照れくさい。
書いては消し、を繰り返す。
ようやくメールを送ったときには、日付が変わろうとしていた。
先生たちの脅しだと思っていた言葉は、その通りだった。
ぐったりした体をベッドに横たえ、唯人は深い溜め息を吐いた。
今日、大学の二次試験が終わった。
唯人は一日だけでこんなに疲れるのに、二日間の日程の学生たちは明日には溶けているんじゃないだろうか。
結果が出るまではどうしようもないだけに、少し気持ちにゆとりが生まれる。
合格を聞くまで油断はできないが、今日くらいは勉強をサボってもいいかという気になった。
こんなに一つのことばっかり考えてたことなかったから、忘れてたけど。
唯人は、久し振りに心の底を覗く気になった。たくさんの「どうして」が浮かんでは消える中、強く残るものがある。
あの夏から抱えている抱えている疑問だ。
海太郎が直人を好きな気持ちは伝わった。これは嬉しい。
直人は海太郎の好きな人を探して、海太郎は恋を諦めずに済んだ。これも嬉しい。
もし海太郎の好きな人が直人でなかったとしたら、あの時点で直人は海太郎への思いなんて自覚していなかったのだから、祝福したと思う。
「問題なのは、二人が両想いになることだけ、だったんだよなあ」
声に出していたことに気づき、口を塞ぐ。
隣は直人の部屋だ。聞こえていないだろうか。
まあ、誰が、とは言っていないので気づかれはしないだろうけれど。
自分の中で過去の話になりつつあるのを感じ、今なら答えを出せるかもしれないと更に一歩踏み込むことにする。
二人が両想いになるのが嫌。だけど、海太郎の相手が直人でなければ祝福できた。
二人が恋人になることによって起こる変化、それも俺が嫌だと思うことってなんだ?
そもそも、あの時点で俺は海太郎のことが好きだったのに、どうして他の人との恋を祝福できるんだ?
思考が渦を巻き、出口を見失う。
この切り口からでは答えが出せないなら……。
顔が燃えるように熱くなる。
明海のことも海太郎のことも好きだが、明海に対してと海太郎に対しての気持ちが違うのは明らかだ。
じゃあ、その感情の名前は?
海太郎の直人を思うときの顔、明海の自分を見つめるときの顔を思い出す。
あれが、恋なら。
「恋じゃないか、これ……」
明海、と今心の中で名前を呼んで。
触れたいとか、会いたいとか思う。
明海が他の誰かに、この前の駐車場でのことを言っていたら嫌だと思う。
恥ずかしいけど、嬉しい。
心に浮かぶ言葉に一々体が熱を持つ。心もなんだかふわふわとする。
俺、直人のこと言えないかも。
唯人はしばらく余韻に浸り、熱が少し引いた時点で海太郎の顔を思い浮かべる。
海太郎が避けられたくはない、と思ったということはあの時点で唯人との関係を変えたいとは思ってなかったってことだよな。
それは今の唯人と同じだ。
だが、海太郎は直人との関係を変えることを望み、それに直人は応えた。唯人が避けさえしなければ唯人と海太郎の関係は変わらなかったのかもしれない。
でも、そうやって関係が変わって行くのが嫌だったってことは……。
考えつつ、関係という言葉がしっくりこない。
立ち位置、見えるもの、世界、居場所。言葉を連想ゲームのように繋いで辿り着く。これだ。居場所だ。
今までいた場所がなくなるのが嫌だったのだ。
さて、残るのは最後の問いだけになった。
ただの友情では収まらない、好き。
相手のここがいいなあ、こういう風になりたいなあ、と思う。
これをなんと言うのだろう。
「憧れ」
すとんと心が落ち着いた。
唯人はスマートフォンを手に取り、電話帳の中から名前を探し当てた。
メール、の方がいいよな。
改まって連絡したことがないので、照れくさい。
書いては消し、を繰り返す。
ようやくメールを送ったときには、日付が変わろうとしていた。