わたしの世界はいつだって真っ暗で、光なんかなくて、何処まで続いているのか分からない闇の中だった。
自分が今、息をしているのか、歩いているのか、それすらもわからない。
けれど、片手には切符を握っている。
人生という名の、切符を。その切符を手にしたまま、彷徨い続けている。逃げることもできない、この空間の中で。
この切符を渡す場所も人もいなくて、きっともうずっとこのまま。
永遠に。
そんな日々が、辛かった。
苦しかった。
いつ終わるか分からない日々の中で、止まることのない自分の心臓が。
だから、今日の言葉が嬉しかった。

「あなたの余命は一年です。この難病は治療法が確立していません。覚悟なさっておいた方がよいかと」

お母さんは泣いていた。
学校にも行かず、不登校で、お母さんが汗水流して稼いだお金を蝕むような子供なのに。それでも泣いてくれた。

「ごめんね、ごめんね。お母さん何もできなくて」

そう、何度もわたしに頭を下げた。
けれどわたしは、むしろ嬉しかったんだ。

「ううん。違うの」

そうお母さんに言った。

「違うよ。わたしはしあわせ」

そう、しあわせになれた。
ようやく終わりが見えたから。
嬉しかった。
ようやくこの切符を誰かに渡すことができる。長い長いトンネルから抜け出して、一気に眩い光を浴びた気分だった。
けれどこの気持ちは、死にたい気持ちからとか、希死念慮とかから来ている訳ではない。
ずっと苦しかった。
人生という切符を持っているのに、何もできないわたしが。
学校ではうまく喋れなくて、いじめられて、泣いてばかりいる。それなのに、こんな自分を変えることもできなくて、部屋に閉じこもったままの、そんなわたしが。
でも、余命一年なら。
与えられた美しいこの世界を、少しだけ見つめられる。ほんの少しだけでも、日々を大切に生きられるかもしれない。
だって、全部終わるんだから。
どんなに苦しくたって、あと一年後にはいなくなっているんだから。
最後くらい、道端に咲く可憐な花を見たっていい。
そう思ったの。

 けれど、普通の人ならそうは言わない。

「もっと、生きたかったなあ」

そういう台詞を吐く、余命わずかなヒロインがたくさんいる。その子にとってはそうかもしれない。
けれど、わたしは違う。
終わりがすぐそばに来ているからこそ、この世界を美しいと感じれる。感じたいと思ってしまう。
生きていくには残酷すぎて、死んでしまうには美しすぎる世界を。
そしてわたしは大きく息を吸う。
病室の窓から息を吸って、太陽を見たとき。
ようやく生きた心地がした。