太陽のようにまぶしく輝くあなたを、いつも見てきた。
昔から英里はモデルのように可愛くて、男性ばかりでなく女性も魅了していた。勉強も得意で、おまけに性格までよかったから、非の打ち所がない。
だから大学進学後に再会した際、芸能事務所に所属して活動している、と本人から聞いても、特に驚くことはなかった。
英里は東京の名門大学に通いながら、タレント活動をしていた。大学卒業後も、雑誌やYou Tubeの広告、テレビ番組などで英里を見かけると、昔からの友だちとして誇らしかったものだ。
英里と私は、保育園から高校までずっと一緒。家も近所で、幼い頃から仲が良かった。
華やかな英里とは対照的に、私は昔から地味で陰キャ。モテた試しもなければ、これといった才能もない。ついでに言うと大きな夢もない。
実家の近くにある大学を卒業後、地元の市役所に勤務して、静かに暮らしている。休みの日はボーイズラブの小説を読みあさり、時折、文芸フリマやアイドルのライブに出かけては、SNSの裏アカウントで推し活をアップして、ニンマリしている。
大学で英里と別々になってからは、東京で芸能活動する彼女を遠くの実家から応援する立場に変わったのだが、それは私にとって開放されたような爽快感があった。隣にいるといつも比較されるし、引き立て役のような存在になるのも正直、苦しかった。
私の名前は月香。親は月曜日に生まれたから月という漢字を名前に入れたようだが、私はこの、月の字に自分の運命まで引っ張られているように感じる。
英里が太陽なら、私はまさに、月だ。
みんなを明るくする英里と違って、私は心を暗闇にするとようやく存在できる。
もちろん、それでいい。……いや、正確に言うと、これまではそれでよかったのだが。
まさか、太陽のような英里がまた、私の近くにやってくるとは思わなかった。
「来月、Ellyさんが市の観光大使になるそうだよ」
課長の東松が、わざわざ私に言ってきた。私は驚きながらも、そうですか、と受け流す。Ellyとは、英里の芸名だ。随分気取った表記をするものだ。
私がいる観光課は、観光大使の手配やイベントのブッキングも業務に入っているから、……嫌な予感がする。
「Ellyさんと幼馴染なんだって? 本人が市長に言っているそうだ」
「あ、まあ、そうですけど」
「で、ね。今年度のEllyさんの担当者をやってくれるか?」
予感が的中した。英里はもちろん好きだけど、仕事として担当するのは避けたい。
「どうして、私が?」
「Ellyさんが希望しているからだ。友だちなんだろ?」
英里は無邪気なものだ。こっちは業務上、固いことをあえて言ったり、嫌われるようなことを言わなければいけなかったりするタイミングがある。友だちの英里に、そんな幻滅させる言動を見せたくない。
「あの、課長。友だちって昔の話で……、向こうは華やかな別世界にいる芸能人で、私はただの……」
「嫌いなのか? なら、断ってもいいぞ」
「いえ、嫌いな訳ないです」
「じゃ、任せた。さっそく来月開催する秀真(ほつま)イルミネーション点灯式に市長も出席するから、そのステージで市長とEllyさんのトークショーと委嘱式を一緒にできるように調整してほしい」
ここで民間企業の人なら、嫌だ、と歯向かうこともできるのかもしれない。でも私は、地方公務員だ。
先輩たちに叩き込まれた公務員の大きな義務の一つ、「法令及び上司の命令に従う」が頭に浮かび、従順に「はい」と答えるしかなかった。
昔から英里はモデルのように可愛くて、男性ばかりでなく女性も魅了していた。勉強も得意で、おまけに性格までよかったから、非の打ち所がない。
だから大学進学後に再会した際、芸能事務所に所属して活動している、と本人から聞いても、特に驚くことはなかった。
英里は東京の名門大学に通いながら、タレント活動をしていた。大学卒業後も、雑誌やYou Tubeの広告、テレビ番組などで英里を見かけると、昔からの友だちとして誇らしかったものだ。
英里と私は、保育園から高校までずっと一緒。家も近所で、幼い頃から仲が良かった。
華やかな英里とは対照的に、私は昔から地味で陰キャ。モテた試しもなければ、これといった才能もない。ついでに言うと大きな夢もない。
実家の近くにある大学を卒業後、地元の市役所に勤務して、静かに暮らしている。休みの日はボーイズラブの小説を読みあさり、時折、文芸フリマやアイドルのライブに出かけては、SNSの裏アカウントで推し活をアップして、ニンマリしている。
大学で英里と別々になってからは、東京で芸能活動する彼女を遠くの実家から応援する立場に変わったのだが、それは私にとって開放されたような爽快感があった。隣にいるといつも比較されるし、引き立て役のような存在になるのも正直、苦しかった。
私の名前は月香。親は月曜日に生まれたから月という漢字を名前に入れたようだが、私はこの、月の字に自分の運命まで引っ張られているように感じる。
英里が太陽なら、私はまさに、月だ。
みんなを明るくする英里と違って、私は心を暗闇にするとようやく存在できる。
もちろん、それでいい。……いや、正確に言うと、これまではそれでよかったのだが。
まさか、太陽のような英里がまた、私の近くにやってくるとは思わなかった。
「来月、Ellyさんが市の観光大使になるそうだよ」
課長の東松が、わざわざ私に言ってきた。私は驚きながらも、そうですか、と受け流す。Ellyとは、英里の芸名だ。随分気取った表記をするものだ。
私がいる観光課は、観光大使の手配やイベントのブッキングも業務に入っているから、……嫌な予感がする。
「Ellyさんと幼馴染なんだって? 本人が市長に言っているそうだ」
「あ、まあ、そうですけど」
「で、ね。今年度のEllyさんの担当者をやってくれるか?」
予感が的中した。英里はもちろん好きだけど、仕事として担当するのは避けたい。
「どうして、私が?」
「Ellyさんが希望しているからだ。友だちなんだろ?」
英里は無邪気なものだ。こっちは業務上、固いことをあえて言ったり、嫌われるようなことを言わなければいけなかったりするタイミングがある。友だちの英里に、そんな幻滅させる言動を見せたくない。
「あの、課長。友だちって昔の話で……、向こうは華やかな別世界にいる芸能人で、私はただの……」
「嫌いなのか? なら、断ってもいいぞ」
「いえ、嫌いな訳ないです」
「じゃ、任せた。さっそく来月開催する秀真(ほつま)イルミネーション点灯式に市長も出席するから、そのステージで市長とEllyさんのトークショーと委嘱式を一緒にできるように調整してほしい」
ここで民間企業の人なら、嫌だ、と歯向かうこともできるのかもしれない。でも私は、地方公務員だ。
先輩たちに叩き込まれた公務員の大きな義務の一つ、「法令及び上司の命令に従う」が頭に浮かび、従順に「はい」と答えるしかなかった。