不穏さを秘めた素敵なタイトルですね。冒頭のシーンから心掴まれ、あっという間に作品の虜になりました。夏、田舎、少年少女の逃避行、白いワンピース。そんなノスタルジックな要素が詰まっていて、訳もなく泣きたくなるような感慨に浸れます。何と言っても、諦念を纏った匂坂くんの語りが魅力的でした。言葉で壁をつくることで自分を守ってきた彼の性格が、一人称の文体に表れているのだという感じがして良かったです。また、後半パートでは彼の成長も見られ、予想外な展開が続き、とても楽しめました。
ところで、主人公がヒロインに向ける想いに対して、形容する言葉を上手く思いつけません。それは時に、究極の自己愛のようにも映るし、神を崇めるような崇拝にも映ります。けれど、そんなあまりにも重たい感情を抱える彼は、確かに彼女に恋をしていたんですよね。最後に。どうかあなたも本作を読んで、致死量のノスタルジーと一途な感情に溺れてください。