10月の最終週は二泊三日で沖縄へ修学旅行に行くことになっていた。
 すでに9月から班を組んでいたので、瞬は人数が足りない班へ自動的に配属される。
 オレとは班が分かれたのはちょっと残念だったけど、班分けの意味があるのは最終日の自由行動と夜寝る部屋くらいだったのでまあいいかと思い直す。

 それよりも、あと2週間後くらいに迫っている中間テストを何とかしないといけない。
 瞬にとっては転校してきていきなりテストなんてついてないなと思う。
 オレの頼りないノートはあてにならないので、瞬はクラス内で上位成績者の女子からノートを借りていた。
 前の学校は二学期制だったらしく、広いテスト範囲で勉強するのに慣れていたようで、今回の中間テストの範囲を聞いて「こんなに狭い範囲でいいんだね、楽でよかった」と瞬は言ったが、さすがにこれはオレの家で二人きりのときの発言だ。
「お前にとっては楽かもしんねえけど、オレたちはそうじゃないのー!」
「ごめんごめん。
 完全に嫌味にしか聞こえなかったよね。
 そうじゃなくて、前の学校のときはテスト範囲が広いから一夜漬けが効かなくて、ちょこちょこ勉強しないといけなかったんだよね。
 だから今回のテスト範囲とこれまで勉強してた範囲が被ってて、ラッキーってだけ」
 瞬は弁解しながら苦笑いしていたが、オレは知っている。
 こないだ言っていたじゃないか。
 前の学校より偏差値を落としてこの高校に来たって。
 だからきっと頭がいいのだと思う。
 一方のオレは高校に入ってからテスト勉強自体を諦めていたけど、今回、教え方のうまい瞬に辛抱強く付き合ってもらって、真面目に勉強をがんばった。

 そのかいあって、今回の中間テストはどの科目も過去最高点をたたき出した。
「もう、瞬くんにはこれからもずっとワタルのそばにいてもらいたいわー。
 ほんっとこの子、口が悪いところをのぞけばビビリで愛嬌だけはあると思うんだけど、高校に入ってからはどうにも勉強しないから成績が上がらなくてねえ」
 母ちゃんの上機嫌は最高潮に達していた。
 てか、悪口を本人の前で言うなよ。
 高校に入るまではちゃんと勉強してたし。
 高校で成績が上がらなくなったのは、単に授業についていけなくなっただけなんだよ、母ちゃんには言ってないけど……。
 今回、瞬に教えてもらって、だいぶ追いつけたような気がする。
 でもそれとこれとは別だから。
「瞬にも自由ってもんがあるだろ」
 そう言って母ちゃんをたしなめたのに、「いえ、僕の方こそワタルくんとずっと一緒にいたいと思ってますから」と笑顔で返した瞬は、母ちゃんにとって満点花丸合格だった。
 瞬は敵を作らないというか、色んな人を自分の味方につけるのがすごくうまいけど、オレはそんな風に振る舞う瞬の姿を見ていると、やっぱりなぜだか胸が痛くなってくるのだった。