恋を知らないオレは、うさぎをそっと抱きしめる

 なんだか毎週末、疲れている気がする。
 気のせいじゃなく、瞬が泊まりに来ているせいだ。

「瞬が毎週泊まりに来るせいで、オレの疲れがとれねえ」
「えーっ、心外だな。
 どうして俺のせいなの?
 別の原因があるかもしれないのに」
「だって……」
 瞬の泊まり以外は何も変わりないからに決まってんだろ!
 と言ってやりたかったが、それとこれとは別で、泊まりに来ること自体が嫌なわけではないので黙るしかない。

「じゃあさ、今日はハグじゃなくて、手を繋ぐだけにしてみる?」
「どういうことだ?」
「寝る前のハグはしないけど、手を繋いだまま寝てみるって感じかな」
 確かにハグよりはオレの肉体的・精神的負担が少ないかもしれない。
「そうしよう!」
 期待を込めて瞬の提案に乗ったものの。

「なんか、寝づらい」
 天井を仰ぎながらつぶやく。
「どうして?」
 仰向けでいつも寝る瞬には分かんねえかもしれないが。
「オレ、横向きで寝たいけど、手を繋いだまま体勢を変えられない」
 繋いでいる手をどうしたらいいか分からない。
「なんだ、そんなことか。
 いいよ、ワタルが動きたいように動いて、手の位置も決めていいから」
「言ってる意味が分かんねえ」
「あ、こういう繋ぎ方のほうが動きやすいかもね」
 瞬は、手のひらを重ねて繋いでいたのを、指と指を絡ませるような繋ぎ方に変えた。
「これだとほら、ワタルが横を向いても、繋いだ手をワタルの身体と一緒に動かしやすいでしょ?」
 瞬がオレの身体をくるりと横向きにさせて、繋いでいた手もそのままオレの身体の前に持っていく。
 でもこれだと、瞬は片方の腕だけ、肘を伸ばしきってオレの身体の上に乗せたままという妙な体勢になる。
「瞬はこの体勢でちゃんと寝れる?」

「うん、寝れるよ。
 だって、ここでワタルとずっと繋がっていられるから」
 絡ませた指をぎゅっと握って、顔をオレの顔に近づけてそっと耳打ちする。

 ばっ……かやろ……。

 以前話してくれた「毎日彼氏と身体を繋げていたから眠れていた」という話を急に思い出してしまう。
 いや、繋がり方違うし!
 頭の中で訂正しても、恥ずかしさが消えることはない。
 とは言っても、手をほどきたいわけでもなくて。
「瞬がいいならこれで寝る。おやすみ」
「うん、おやすみ!」
 なぜかうれしそうな瞬にくやしさを感じながら眠りについた。
 
 瞬が泊まりに来るようになってから、目的の分からない謎に羞恥心を煽られる言動に、ただただ振り回されて週末の夜は過ぎていった。