恋を知らないオレは、うさぎをそっと抱きしめる

 1月も下旬になっていた。
 年明けよりも、この時期の方が余計寒さを感じる。
 言わずもがな、ベッドの中も。

「さむっ、つめたっ」
 ベッドの冷たいシーツの中に潜りながら、暖をとるようにお互いハグする。
「ワタルってさ、俺以外の人とハグしたことある?」
「家族とか小さいときも含めてか?」
「含まないで」
「うーん、どうだったかなあ」
 現在から過去に向かって記憶をたどる。

「そういえば……近所に住んでいた三歳下の子が引っ越すとき、その子とハグしたかも」
「男の子? 女の子?」
「女の子だよ。その子、何歳だったかなあ。
 オレも小学生だったから、小2くらいの子だった気がする。
 学童が一緒でさ、結構遊んであげてたんだよね」
「……へー。その子、ワタルのことが多分好きだったと思うよ」
「小2だよー? ないない」
「ワタルは恋する女の子のこと分かってないな」
「そう?」
 恋多き男に言われると、何も言えない。

「これからは、俺以外の友達とハグしないでよ」
 急に子どもっぽいことを言われて、吹き出してしまう。
「結構難しいリクエストしてくるなー。
 卒業式とか色々あるじゃん。
 そんときどうすんのさ」
「そしたら、今みたいに寝る前のハグをするのは俺だけにして」
「もともと寝る前にハグしてるのは瞬だけなのに」
「でも、約束がほしいの!」
「分かったよ。これからも瞬だけにする」
 小さい子みたいに駄々をこねる瞬に、苦笑しながら約束した。
「よしよし、じゃあ寝ような? 瞬くん」
「子ども扱いしないでよ」
「してないよー。ほら、おやすみ」
「……おやすみ」
 不満げな瞬が珍しくて可愛らしかった。



 1月最後の金曜日、前の週に約束させられたことを思い出し、そういえばと問いただす。
「先週のハグの話、瞬はどうなの?
 後でよくよく考えたら、オレだけ瞬に限定されてんのが納得いかねえ」
 やっぱり対等な関係は大事でしょ。
 親友なんだから、なおさらね。

「へえ、ワタルも気になるんだ」
「は? 何がだよ」
「俺が誰とハグするのか」
「気になるというか、瞬がオレに一方的な約束をさせるからだろ」
「ワタルも俺の約束、ほしい?」
 話が思いもよらぬ方向に向かっている。
「……っ、ほしいというか、オレも約束したから瞬も約束してっていうだけだし……」
「やっぱり約束がほしいってことだよね?」
「ああもう、それでいいから!」
 だんだんめんどくさくなっていたところに、最後の一撃を加えられる。

「じゃあ、俺に『ほしい』って言って?」

「なっ……!」
「ほら、はーやく」
 いたずらっぽく笑う瞬を相手に、抵抗するのを諦めて深いため息をついた。
「これから、寝る前のハグは、……っオレだけって約束、してほしい……」
「うん、もちろんワタルだけだよ?」
 少し身体を離して、オレの顔を間近で見ながら小首を傾げつつそう言うので、とっさに赤くなった顔を隠せなかった。
「お前……分かっててやってるだろ」
「なにが?」
 とぼけるな。
「ハグ終わり! おやすみ!」
「はいはい、おやすみ、ワタルくん」
 こいつ、絶対先週の子ども扱い返しをしてやがる。
 くっそ。