次の日、六人で初詣に行くことになっていたが、瞬はうちでオレたち家族と朝ご飯を食べた後、着替えるために一旦自宅に戻り、その後親子二人でこっちの家に来ることになっていた。

 オレは瞬たちを迎えに行くというていを取って、隣のマンションをたずねる。
 瞬が緊張した面持ちでドアを開けてくれ、初めて瞬の家に入る。
 リビングに進むと、瞬のお父さんがテレビの前で新聞を読んでいた。

「あの、おじさん!
 瞬からちょっと伝えたいことがあるんですけど、時間いいですか!」

 隣でギョッとした顔をして瞬が慌てたけど、こういうときはストレートにやる方がうまくいくし楽なんだよな。
 空気を読まずに切り込むのが、他人であるオレの役割だった。
「なんだろう。
 瞬、話してごらん?」
 新聞を丁寧に畳んだお父さんの方に向けて、瞬の背中を両手でぐいっと押し出した。
 修学旅行のとき、オレが助けてもらったみたいに。

 観念した瞬がぽつりぽつりと話し始める。
「父さん、俺、これまで母さんと父さんが離婚した後、ずっとひとりで……寂しかった」
 涙声を震わせて続ける。
「母さんは気が強いし、一緒にいたときも甘えられなくて……ずっと言えなかった。
 今はワタルとワタルの家族に救われているんだ。
 俺は……もっと父さんとも、一緒に過ごす時間がほしい」

 瞬のお父さんが固まる。
 そして……涙を流し始めた。

「すまない。すまない、瞬。
 いつもお前ばかりに我慢させて迷惑をかけていた。
 私が不甲斐ないばっかりに……。
 父親失格だな」
「父さんは悪くない、悪くないから……」

 二人が泣いているので、オレももらい泣きしてしまう。

「ワタルくんも、いつも瞬に寄り添ってくれてありがとう」
「いえ、オレは何も」
「ワタルには、そばにいてもらえるだけで助かってるんだ」
「瞬……」
 涙を拭きながら瞬を見る。

 瞬のお父さんが言葉を紡いだ。
「そうだね。
 私も、もう少し仕事の量を減らして、瞬と一緒の時間が取れるように病院に掛け合ってみることにするよ。
 患者の病気を治す前に、まずは医者自身とその家族も心から健康にならないといけないね。
 病院と折り合いがつかないなら、そろそろ今の病院も潮時かな。
 別の職場を探すのもいいかもしれない。
 もっと早くそうしておけばよかったね」
 寂しそうな顔が、瞬にとてもよく似ていた。
 この人も壊れそうだと思った。

 でも、ダメだよ。
 二人にはオレがいる。
 決して壊れないように守るから。

「おじさん、大事なのは過去じゃなくて、今とこれからの未来だろ!
 過去を振り返ることはできても絶対に戻れないんだからさ!
 だから、後悔することを止めはしないけど、後悔に囚われたらダメだよ。
 あのときはそうすることがベストだったって、信じて前に進んでいくしかないんだよ」

 瞬のお父さんの目を見る。
 深くうなずいてくれた。

「ワタルくんの言うとおりだね。
 きっとこの過去があったからこそ、瞬も私もワタルくんたちに出会えたんだな」
「そうそう、その調子でいいんだよ!
 ……あ、オレ、だいぶ偉そう?」
 様子をうかがうように瞬に顔を向けたけど、
「大丈夫だよ、ワタル」
 力強くうなずいてくれた。
 誰からともなく三人で笑った。
「さあ、みんなで顔を洗って、鹿口家に行こうか」


 六人で神社に向かう途中、瞬の顔が今まで見たこともないくらいキラキラ輝いていて、ただただまぶしくて、オレは元旦からとってもいいものを見た気がして、とにかく最高な気分だった。