アイツに初めて会ったとき、そう、なんて言うか、顔が綺麗でムカついたっていう気持ちがあったのは否定しない。
ドンッ
10月1日。
いつものように朝、昇降口で上履きに履き替え、教室に向かおうとしたときだった。
正面からまともに人とぶつかって、お互い尻もちをつく。
オレが勢いよく教室へ続く階段を目指して歩いていたせいかもしれないが、相手も絶対前をよく見てなかったと思う。
「ごめんなさい!
怪我はないですか?」
謝罪しながらこちらを気遣う相手の顔を一瞥した。
韓流アイドルみたいな顔の男子だった。
もともと朝は不機嫌なこともあり、イライラした気持ちが胸の中で膨れていくのを感じる。
「痛え!
よそ見してたんじゃねえの?
ちゃんと前見て歩けや」
無意識のうちにそう吐き捨てていた。
やべっ、しまった。
言った後に後悔しても後の祭りだ。
自分の内面はビビリだという自覚があるが、口をついて出る言葉はなぜか強がってしまい、いつもこんな調子でトゲトゲしい言葉を使ってしまう。
過去にそれで何回かトラブルになっているから、気をつけていたのに。
「本当にそうですよね。
俺が悪いんです。
今日転校してきたばっかりで、どこに何があるか全然分からなくて。
さっき初めて校舎内に入って、周りを見ながら歩いていました。
すみませんでした」
やたら丁寧に謝られる。
しかも聞けば今日が初日の転校生なのに。
そんな人に何という仕打ちをしてしまったのか。
この学校でのファーストコンタクトがよりによってオレなんて!
本当に申し訳ない。
「こっちもキツイ言い方してごめんな?
初日だったら分からなくて当然だよな。
お詫びにオレが責任もって放課後校内を全部案内するわ」
罪悪感にまみれながら提案した。
「本当ですか?
ありがとうございます」
相手の男子は心底ありがたいかのように微笑む。
「ところで、数学の先生がいる教務室はどこですか?」
「連れてってやるよ。
ついてきな」
オレは尻もちをついたズボンを手で払って立ち上がった。
歩きながら、ソイツに話しかける。
「何年?」
「2年です」
「オレと同じじゃん。何組?」
「3組です」
「オレも!
じゃあ、沼やんのところへ連れて行けばいいんだな?」
「はい、沼田先生です」
「タメなんだから、敬語やめようぜ」
「……うん、分かった。
ねえ、名前教えて?」
「鹿口(しかぐち)ワタル。ワタルって呼んで。
お前は?」
「丸崎瞬(まるさきしゅん)。瞬でいいよ」
瞬は珍しい高2の秋からの転校生だった。
小中学校までは転校生を見たことはあったけど、高校では初めてだ。
親の都合での転校に慣れているのか、瞬はクラスでもあっという間に馴染んでいた。
いいな。
少しうらやましい。
オレは油断するとすぐに角の立つ言い方をしてしまうせいで、瞬ほどクラスメイト全員から歓迎されていないことは知っている。
それに、このクラスになってから半年が経つのに、オレとクラスメイトの間で親睦が深まっているとは到底感じられなかった。
休み時間、瞬がオレのところに来たけど
「他のやつと一緒にいたいなら、無理してオレと一緒にいなくていいから」
なんて、またトゲトゲしく言ってしまう。
いい加減、拗ねた小学生みたいなことを言うのはやめたい。
「違うよ。
俺はワタルと一緒にいたいんだよ」
瞬は優しく諭すように言った。
オレにかまう方が面倒なのに、今どき奇特な人間もいるもんだなと不思議に思った。
ドンッ
10月1日。
いつものように朝、昇降口で上履きに履き替え、教室に向かおうとしたときだった。
正面からまともに人とぶつかって、お互い尻もちをつく。
オレが勢いよく教室へ続く階段を目指して歩いていたせいかもしれないが、相手も絶対前をよく見てなかったと思う。
「ごめんなさい!
怪我はないですか?」
謝罪しながらこちらを気遣う相手の顔を一瞥した。
韓流アイドルみたいな顔の男子だった。
もともと朝は不機嫌なこともあり、イライラした気持ちが胸の中で膨れていくのを感じる。
「痛え!
よそ見してたんじゃねえの?
ちゃんと前見て歩けや」
無意識のうちにそう吐き捨てていた。
やべっ、しまった。
言った後に後悔しても後の祭りだ。
自分の内面はビビリだという自覚があるが、口をついて出る言葉はなぜか強がってしまい、いつもこんな調子でトゲトゲしい言葉を使ってしまう。
過去にそれで何回かトラブルになっているから、気をつけていたのに。
「本当にそうですよね。
俺が悪いんです。
今日転校してきたばっかりで、どこに何があるか全然分からなくて。
さっき初めて校舎内に入って、周りを見ながら歩いていました。
すみませんでした」
やたら丁寧に謝られる。
しかも聞けば今日が初日の転校生なのに。
そんな人に何という仕打ちをしてしまったのか。
この学校でのファーストコンタクトがよりによってオレなんて!
本当に申し訳ない。
「こっちもキツイ言い方してごめんな?
初日だったら分からなくて当然だよな。
お詫びにオレが責任もって放課後校内を全部案内するわ」
罪悪感にまみれながら提案した。
「本当ですか?
ありがとうございます」
相手の男子は心底ありがたいかのように微笑む。
「ところで、数学の先生がいる教務室はどこですか?」
「連れてってやるよ。
ついてきな」
オレは尻もちをついたズボンを手で払って立ち上がった。
歩きながら、ソイツに話しかける。
「何年?」
「2年です」
「オレと同じじゃん。何組?」
「3組です」
「オレも!
じゃあ、沼やんのところへ連れて行けばいいんだな?」
「はい、沼田先生です」
「タメなんだから、敬語やめようぜ」
「……うん、分かった。
ねえ、名前教えて?」
「鹿口(しかぐち)ワタル。ワタルって呼んで。
お前は?」
「丸崎瞬(まるさきしゅん)。瞬でいいよ」
瞬は珍しい高2の秋からの転校生だった。
小中学校までは転校生を見たことはあったけど、高校では初めてだ。
親の都合での転校に慣れているのか、瞬はクラスでもあっという間に馴染んでいた。
いいな。
少しうらやましい。
オレは油断するとすぐに角の立つ言い方をしてしまうせいで、瞬ほどクラスメイト全員から歓迎されていないことは知っている。
それに、このクラスになってから半年が経つのに、オレとクラスメイトの間で親睦が深まっているとは到底感じられなかった。
休み時間、瞬がオレのところに来たけど
「他のやつと一緒にいたいなら、無理してオレと一緒にいなくていいから」
なんて、またトゲトゲしく言ってしまう。
いい加減、拗ねた小学生みたいなことを言うのはやめたい。
「違うよ。
俺はワタルと一緒にいたいんだよ」
瞬は優しく諭すように言った。
オレにかまう方が面倒なのに、今どき奇特な人間もいるもんだなと不思議に思った。