「千歳、紬乃のことが好きだったんだろうな」
「……」
「でも、おれは紬乃だけだよ。何があっても、紬乃だけは守るよ」
「藍、どこにも行かないで」
うん、といって藍があたしの髪の毛にキスをした。
千歳くんがあたしのことを好きだなんて、ずっとずっと前から知ってたよ。
知っていたから、対策できたの。
知っていたから、証拠集めができたの。
知っていたから、今、ここにいられるのよ。
補導されたあと、改めて警察署に来て、書類を取り出すあたしを見た刑事さんの顔を、いまだに覚えている。
あのときあたしが取り出したのは、千歳色が毎日家の前に来ていたところを部屋の窓から写した写真。
千歳色との通話履歴を保存したメモリーカード。
図書室での会話を録音した履歴。
そして、メッセージアプリのトーク履歴。
あたしが嘘をついたのは、藍だけじゃない。
あたしね、あのとき、ほんとうに焦ったの。
だって、藍に知られるかと思ったから。あたしが、千歳色とキスをした、ってこと。
あたしは別に、千歳色のことなんかこれっぽっちも好きじゃないけれど、だって図書室で彼が、あんなふうに迫ってきたから。
あたしは、藍のことがすき。すきだから、あの事実を隠すためだけに、なんでもしたんだよ。自分の手で、思う通りに動かした。
あれ、本当に疲れたなあ、と、懐かしむようにその記憶に触れた。