お母さんの運転する車が、きゅ、と止まって家の前に着くと、お母さんは後部座席にいるあたしに家の鍵を渡してきて、「お母さんこのままパートの仕事に行くから、藍くんによろしく伝えといて」と言った。


 わかった、と伝えて、車を降りる。

 お母さんの運転する車は、すぐにどこか遠くに行ってしまった。



 玄関の鍵を開けると、藍のスニーカーが揃えて並べてあるのが見えて、少しだけ安心した。


 内鍵をきちんとかけて、階段を登っていく。2階の角にあるあたしの部屋のドアノブを回すと、向こうから愛しい人の影が見えた。




「紬乃、お疲れさま」




 床に座ってスマホを見ていた彼が、あたしを見て立ち上がった。

 テーブルの上に置いてあるお茶は、きっとお母さんが出してくれたものだろう。中身が半分ほど減っていた。




「藍、来てくれたんだね」

「紬乃に会いたかったから」




 鞄を下ろして、テーブルにスマホを置いた。

 腰を下ろすと、藍があたしの隣にぴったりとくっていてきて、あたしの髪の毛をやさしく撫でた。


 彼の顔が近づいてくる。

 あたしは目を瞑って、彼の体温を受け入れた。
 すぐに、唇は離れていく。



 少しだけ高い目線からあたしを見下ろしてきた彼の瞳が熱っぽい。

 少しだけ視線を絡ませて、あたしたちはもう一度、唇を重ね合わせた。



 お互いの熱を重ね合わせて、頭にまわされた手に愛なんてものを感じたあと、藍はもう一度あたしを抱きしめて言った。




「病院、どうだった?」