「秘密にしていたことがあるの」



「……何それ」



「千歳くんが言ってたようなことじゃないよ。秘密っていうか、言ってなかったこと。先に言うけど、あたし浮気なんか、してない。

ぜんぶ、ぜんぶ最初から、話すね。

藍ってさ、モテるんだよ。知ってた? 例えば、あの、学校に来なくなった子、いたじゃん。森田さん。あたし、実はあの子から嫌がらせ受けてて。森田さん、藍のことが好きだったんだって。だから。

最初は、なんであたしがああいう子に嫌なことされなきゃいけないんだろうって、ずっと悩んでたの。藍に何度も言おうとはしたんだけど、でも、藍に言ったら嫌がらせがエスカレートしそうで、言えなかった」



「……」



「そのときたまたま、相談に乗ってくれたのが千歳くんだったの。

何で千歳くんだったのかって言われたら、ローファーに画鋲が入ってるみたいな、そういう些細な嫌がらせの片付けをしてたときに、たまたま千歳くんが通りかかって声をかけられたから、ってだけ。

ほら、あったでしょ。藍が実行委員の部門会議で一緒に帰れなかったとき。あのとき」



「だから、千歳と連絡とってた、てこと?」



「……うん。そうだよ。

最初はね、話聞いてくれるとか、そういう感じだったんだけど、ほら、森田さんって、学校来なくなったじゃん。色々あって。だから結局、彼女からの嫌がらせもなくなって。

だけどね、そのあたりから、千歳くんの様子がだんだんおかしくなっていったの。なんか、あたしに執着してくる、みたいな、そういう感じ。

藍、知ってるでしょ?

千歳くん、しつこく連絡してきてたの、覚えてる? 一緒に部屋にいるときに何回か連絡来てたと思う。あれ、藍といるときだけじゃなくて、常に連絡が来てた。

藍が受けてるストーカーほどひどくはないけど、それに近いものなのかなって、」



「……そういうことだったのか」



「うん。だから、前に藍と一緒にいたとき、ブロックしたでしょ、千歳くんのこと。だから、もう何もないのかなって思ったんだけど、彼、ひとりで暴走しちゃったみたい。

なんか、坂下ちゃんがこんなときに、やめてほしいよね。心労が増えるっていうか、なんか、もうあたし、しんどくなってきちゃった。

あたし、千歳くんとは何もないよ」



「千歳が言ってたこと、全部でたらめってことか?」



「当たり前じゃん。あたしが千歳くんとキスなんかして、何になるの? そんなこと想像したくもない。

それに、なんだっけ、後輩を脅して、みたいなのも、意味わかんない。あたしがそんなことする理由、ないよ。

そんなくだらないことする暇があったら、あたしはもっと、藍と一緒にいたい。

たぶん、千歳くん、勝手に頭の中であることないこと妄想してるんだよ。統合失調症? 妄想性障害? そういうの、安易に人に当てはめるのは良くないだろうけど、千歳くんにはそういうのがあるとしか考えられない」



「本当?」



「ほんとだよ。あたし、嘘なんてついてない」