走って、走って、角のところで車に轢かれそうになったけれど、それでも走った。


 あたしの家から、藍の家まで歩いて30分。走れば、藍なら15分、あたしなら20分。



 真昼と一緒に帰宅部を謳歌した3年間のせいで、体育の授業を除いてまともに走るのは、中学校の部活のとき以来だったから、すぐに息が切れて、心臓がどくどくと波打って、肺が酸素をもとめて呼吸が早くなって、ただでさえ嘔吐のせいで弱っていた喉がさらに痛んだ。



 藍の家の近くに着いたとき、まだお兄さんからの連絡はなかったから、あたしは藍の家の周辺図を頭の中に描き出しながら、藍の行きそうな場所を考えた。


 2分くらい走ればコンビニがあって、3分くらい走れば公園がある。

 コンビニと公園は、逆方向。


 コンビニの方向に向かってみようと、そう決めて足を踏み出したとき、左手に握っていたスマホが光って、震え始めた。



 藍のお兄さんか、と思って画面を見た。



 表示は、〈成田藍〉だった。



 まさか、ずっと連絡のつかなかった藍が自分から連絡してくるだなんて思ってもみなかったから、あたしは驚きながらも、すぐに緑色のボタンをタップした。




「藍! いまどこにいるの!?」




 叫ぶようにして言った。
 我ながら、余裕のない声だった。

 帰ってきたのは、生気を抜き取られたような、か細い藍の声。

 さっきまで一緒にいた時とは全然違う声で、彼はあたしの名前を呼んだ。



『紬乃……絶対に家から出ないで』