プリントを渡した後、もう遅いから家まで送るよっていって、藍がスニーカーに足をつっかけた。


 こんなときに外に出ない方が良いんじゃないかって言って、彼からの申し出を一度は断ったが、俺は男だから、いざとなったらストーカー相手に何とかできるかもしれないけど、紬乃は女の子だから心配、だなんていって、藍はあたしの言葉を聞いてくれなかった。


 これじゃあ、学校を休んでいる意味がないと思ったけれど、藍がこういう物言いをするとき、あたしが折れるしかないってことは、今までの付き合いで嫌というほどわかっていたから、あたしは大人しく、彼に送られることになった。


 隣を歩いていると、藍が会えない時間の空白を埋めるかのように口を開いた。



「ていうか紬乃、違うクラスなのにわざわざプリント届けてくれたの?」

「敦に頼まれたの。藍の家知らないからお願い、って」

「押し付けられてるだろ、それ」

「知ってた上で、会いにきたの」



 あたしの言葉を咀嚼した藍が、何それうれしい、といってあたしの頭を雑に撫でた。


 髪の毛を触られて、髪の毛が崩れることが全く気にならないのは、藍から撫でられたときだけ。


 こんなところで、恥ずかしいからやめてって言ったら、ごめんね? と彼は意地の悪い顔をしてわらう。


 彼が何をしていても愛しかった。だからこそ、千歳色との関わりが、あたしの心に影を差す。


 藍の匂いを鼻腔で感じ取って、苦しさごと愛した。

 隣にいる大好きな人を守れるのは、あたししかいない、だなんて、遂行できるかもわからない意思だけを抱きながら。