誰が悪いかって言われたら、まずはストーカーをしている加害者、千歳色と続き、最後にあたしだろうと思う。


 あんなことがあった後で、藍に合わせる顔はなかったけれど、敦から受け取ったプリントを届けなければならないという事情だってあるし、それに、藍に行くからって連絡した手前、今更行かない、だなんて言えるわけがなかった。


 千歳色に触れられたところから彼の記憶を振り払うかのように、ローファーをいつもより大きく鳴らして、大股で歩いた。


 とにかく歩いて、藍の家に向かう。


 電車に乗った方が早かったけれど、歩けない距離じゃないし、それに今は、こうやって歩き続けていたかった。


 やり場のない不安と、苛立ちをおさめたかった。こんなことで、負の感情が収まるとは思えないけれど。


 そうしてひたすら身体を前へ前へと押し出しているうちに、藍の家が見えてくる。



 藍の家に着いてインターフォンを押すと、中から出てきたのは、大学生である藍のお兄さんだった。


 藍のお兄さんとはそこそこ面識があったから、彼はあたしの顔を見るや否や、紬乃ちゃんどうも、とやさしくわらう。


 藍のこと呼んでくるから待ってて、と、藍よりもすこし低めの声で言い放った彼が奥の方に消えてから約2分後、藍が現れた。


 柔らかい物腰は兄弟に通った血がそうさせているのだと思うけれど、あたしが持つ周波数にフィットするのは、弟のほう。



「遅かったから心配した」



 Tシャツにスウェットだなんていう極めてラフな格好をした藍が、玄関であたしの髪の毛に触れた。


 お兄さんが来ちゃうかも、と思ったけれど、彼は気にする様子を見せない。

 恥ずかしくなって、あたしはすぐに彼から離れた。