そりゃあ、昼休みに真昼たちと話した時に、森田が藍を狙ってる、だなんて言われたときは、「好きにさせといたら良いんじゃない」なんて流してみせたけれど、森田のことを全く気にしていない、というのは嘘になるわけで。
だからふたりがどんな話をしていたのかはわからないけれど、放課後に藍があたしをずっと待たせて森田と一緒にいた、という事実に対しては、少なからずかちんとくるものがある。
けれど、そんな苛立ちを藍にぶつけるのも癪だ。こんなときに余裕をなくすだんてみっともない真似、できるわけがない。
「あ、紬乃ごめん、いま行く」
あたしの声に気がついた藍は、森田に対して、また今度で良い? と断りを入れてから、荷物を持ってこちらにやってくる。
その瞬間、森田と目が合った。すると向こうがふいと目を逸らした。あたしは森田に対して、心の中でそっと中指を立てる。
「ごめん、邪魔したかな」
全然反省していない謝罪を口先だけで展開して藍の方を向くと、藍は何も気にしていない様子で続けた。
「実行委員の話。実行委員っていってもその中で色々な部門に分かれてるんだけど、誘導部門の統括が森田さんで、なんか相談に乗って欲しいって」
「そっか、そっちのクラスの女子の実行委員って、森田さんだったんだね」
相談なんか、藍のこと放課後引き止めてまでやるなっての、とかそういった乱暴なセリフが頭に浮かんだけれど、それは心の中に留めておく。
「だけど、待たせてごめんな」
階段を降りている途中、そう言いながら藍はあたしの頭をやさしく撫でた。あたしは藍のそういう手つきが好き。単純なあたしは、それで藍を簡単に許せてしまう。