唇がうすくて、感触に男らしさを感じる藍とのキスとは違って、千歳色から受けたキスは、びっくりするほどに柔らかかった。


 彼の太腿があたしのスカートを割ったので、慌てて脚を閉じながら抵抗すると、やっと唇が離れていった。



「やめて、ください」



 同級生の、しかもこんな訳のわからない人に敬語を使うだなんて、普段のあたしなら絶対に考えられないだろうけど、全身を駆け巡る恐怖があたしの思考を奪っている現状、有効な言葉なんて思いつくはずもなかった。



「ねえ、織方さん、どっちにするか選んで?」



 彼の太腿がもう一度あたしのスカートを割って、肌着の上からそこを思い切り刺激するものだから、下腹部からは暴力的なほどに甘い熱が湧き上がってくる。


 混乱した身体はしっかりと千歳色を力の及ばない男性であると認識していて、それが余計に、あたしの羞恥心を掻き立てた。



「どっちって、な、にが」

「成田のことを俺に任せるか、このまま、最後までするか。どっちが良い?」



 どっちにしたって最悪だった。


 言葉の意味を頭の中でちゃんと吟味する余裕を与えないかのように、あたしに人間くさい刺激を与え続ける彼が化け物のように思えて、何も考えられなくなったあたしは、悲痛の叫び声を発した、つもりだった。



「お願い、離して……」



 放たれた声は思ったよりも小さくて、自分の意思はそれよりも薄弱だった。


 あたしの声に反応した千歳色は、何事もなかったかのようにあたしを簡単に解放し、支えを失ったあたしは、その場にずるずると座り込んだ。



 任せて。



 千歳色はそれだけ言い残して、あたしを置いて颯爽といなくなった。


 彼から与えられたキスの感触が熱を持って、あたしをずっと苦しめた。