うちの学校は、図書委員も、司書もやる気がないのだろうか。
今日も図書室には誰もいなかった。
千歳色は、まるでそれを最初から知っていたかのように、平然とした顔で図書室にあたしを迎え入れた。
前と同じ、奥の窓際、外からは見えないところに隠れるように足を運んでから、彼はあたしに言う。
「織方さん、悩みとか、あるんじゃない?」
かけられる言葉の裏を読もうと試みたけど、彼はそれを許さなかった。
言葉を詰まらせる。
千歳色については、思うことがある。
たとえば、藍が今まさに受けているストーキング。
あれをやっているのは、千歳色なんじゃあ、ないかって。
あたしの中に生まれた恐ろしい仮説は、日に日に膨れ上がっていたけど、今まで確かめようがなかった。
でも、今なら。
あたしは意を決して、千歳色に向き直る。
「藍に付き纏ってるのって、千歳くん?」
あたしにそう尋ねられた千歳色は、すこしだけ目を丸くしてから、遅れて言葉を発した。
「それは、俺じゃないよ」
「うそだ。千歳くんしか考えられない」
「失礼だね。反論してあげるから、どういうことか教えてくれない?」
すこし悩んでから、藍が受けているストーキングを、かいつまんで一部だけ説明した。
非通知からの無言通話、だとか、帰宅した直後のメール、とか。
千歳色は、うんうん、とひとしきり頷いてあたしの話を聞いたあと、
「残念だけど、それは俺じゃないねえ」
そう言って、窓の縁に腰掛けながら、腕を組んだ。
思っていた回答が得られなくて、何だか肩透かしを食らったような気分になる。
だって、千歳色じゃないのなら、一体誰がこんなことをするのだろうか。
千歳色が嘘をついている?
それとも、本当に彼以外の誰かが、ということなのだろうか。
彼の様子を見ているだけでは、何もわからなかった。