教室に戻って、あるべき場所にあったバッグを回収した。
いつの間にか放課後の教室は静まり返っていて、なんだかつめたい感じがした。
いつの間にか、教室で歓談していたみんなは帰ってしまったらしい。
荷物をまとめ直して教室を出たとき、だった。
誰もいないはずの廊下に人の気配を感じて振り向くと、すこし離れたところにいる男子生徒がひとり、こちらに気づいて手を振ってきた。
ぞく、と背中が震える感じがする。
その姿に見覚えがあった。
その男子生徒は、あたしにまっすぐ向かってくる。
「織方さん、久しぶり」
俺の連絡、どうして無視したの?
そういって笑ってみせたのは、千歳色だった。
驚きと困惑、そして恐怖。
フラッシュバックするのは、森田と、後輩のあの女の子のこと。
画面越しに見たあの子の万引き現場が、何度忘れようとしたって、脳内で綺麗に再生された。
早く彼のことなんか無視して、行かなきゃ、と思ったけれど、思考と行動はなかなか重なり合わない。
「ねえ、何か困ってるような顔して、どうしたの?」
あたしが何も言えないでいるうちに、千歳色がどんどんと言葉を積み重ねていく。
連絡先を消して、断ったはずの繋がり。どうして、こんなタイミングでまた現れるのだろうか。
「図書室においで。話きいてあげる」
行きたくないのに、彼から離れたいのに、身体は言うことを聞かなくて、千歳色の発する毒気が、あたしを少しずつ侵食していくような感覚がして、どうしようもなく、あたしはただ、促されるがままに彼の背中に着いていった。