この間あたしの部屋で、誰かに付き纏われてる気がする、と藍に打ち明けられたとき、まさか、とは思ったけれど、藍が受けているのは、わりと陰湿なストーキングだった。


 非通知からの無言電話が1日に何回も届いたり、帰宅直後に、おかえりなさい、というメールが届いたり、SNSのダイレクトメッセージ宛てに、捨て垢と見られるアカウントから、暴言とか、性的なメッセージとか、あるいは気持ちの悪い画像が送られてきたり、だとか。

 どれもこれも、吐き気を催すようなことばかりだった。


 そんなストーキング行為をあたしは全く受けていなくて、藍だけが標的になっているのが不思議だった。


 あたしは藍から相談を受けたとき、すぐに彼のSNSのアカウントをログアウトさせ、非通知からの着信を受けないような設定にさせて、メールの通知も切らせたけれど、相手は手を変え品を変え、藍に接触を試みているらしい。


 実害がないから、警察に相談するわけにもいかなかった。


 それに藍は、あの通り背も高いし、力の強い男子だ。

 例えば警察なんかに行って、彼がストーキングの被害に遭ったということを伝えても、彼が庇護の対象にはならなさそうに思える。


 だからこそ、余計に厄介だった。


 彼が塞ぎ込むほどの精神的ダメージを受けているようには見えなかったけれど、あたしは念のため、数日学校を休むことを彼に勧めた。

 藍はあたしの勧めをすんなりと受け入れている。


 来週からは行く、とは言っているけれど、心配は尽きない。


 誰がやっているのか、想像できなかったからだ。

 ひとり、ぼんやりとした心当たりはあるけれど。


 ため息をつきながら、昇降口でスリッパを脱いでローファーに履き替えようとしたとき、あ、と声が漏れた。


 ……お弁当が入っているバッグ、教室に忘れてきたかも。


 さいあく、だなんて言葉を頭のなかで弄びながらも、お弁当を一晩教室に放置したままにするのも気が引けた。

 あたしは教室に戻るべく、履きかけたローファーを脱いで、もう一度スリッパに足を通す。