◇


 付きまとい、なんて言葉をインターネットで調べてみても、出てくる情報は、「被害届を出しても、それが身体的・精神的な侵襲性のあるものだと判断されなければ警察は動いてくれない」だとか、「実際にストーカーの被害に遭った女性が、然るべき機関に助けを求めたのに、対応してもらえず引っ越しを余儀なくされた」とか、そういう、先行きの暗いことばかり。


 どうしようかな、とひとり放課後机の上に突っ伏して、目を細めながらブラウザアプリを閉じたとき、向こう側からあたしを呼ぶ声が聞こえた。



「紬乃ー。おまえさ、藍の家知ってる?」



 見ると、真昼の彼氏である(あつし)が、うちのクラスの真昼を迎えにくるついでに、2枚のプリントを手に持ちながらあたしに尋ねてきた。



「知ってるけど、何?」

「あいつ、昨日と今日学校休んでるじゃん。数学の課題プリント届けろって担任から言われたんだけど、俺あいつの家あんま覚えてねーから、紬乃持って行ってくれない?」



 敦の言う通り、藍は2日間学校を休んでいた。


 表向きには体調不良ということになっているけれど、あたしだけは本当の理由を知っている。


 敦の頼みに、良いよ、と二つ返事をすると、彼は手に持つプリントをそのままこちらに渡してきた。


 彼からしたらきっと面倒な仕事をあたしに丸投げしただけだろうけど、今日は元々藍の家に行くつもりだったから、まあついでに良いだろう。


 敦は、助かるわ、とだけ言って、教室から出ていった。

 真昼は嬉しそうな顔をして、紬乃ばいばい、と手を振ってから、敦の背中を追いかけた。


 おおかた、ふたりはこれからデートにでも行くのだろう。

 真昼はバイト、敦は予備校でいつも忙しそうにしているから、こうやってタイミングを合わせられる日なんて滅多にない。


 あたしの心労なんかこれっぽっちもわからないふたりが幸せそうな表情を浮かべながら顔を見合わせていて、少し、複雑な気持ちになる。


 けれど、そんなことを考えていても仕方がない。


 あたしも藍のところに行かなくてはならないので、敦から受け取ったプリントを丁寧にファイルの中に仕舞ってから、ひとり教室を出た。