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「紬乃、さいきん暗くない?」
なにそれ、と言いながら、あたしの上に跨る藍を見つめた。
藍はあたしの制服のシャツのボタンを、ひとつずつ丁寧に外しながら言う。
「暗いっていうか、元気ないよね」
「まあ、あたしこう見えて実は陰鬱だから」
「嘘つけ。いつも真昼たちと騒いでるくせに」
まあ、それもそうか、とひとり納得する。
元気がない、というのは藍の言う通りで、最近、千歳色の件で考え事ばかりしてたのは確かだった。
後輩のあの子が万引きで停学になってから、あたしも何か悪いことに巻き込まれるんじゃないかって気が気ではなかったけれど、結局、何事もなくあれから数日が経っていた。
けれど、ずっと頭の中をぐるぐると巡っていた不安とか心配だとかが、いつの間にか顕在化していたみたいで、現にこうやって、藍から不審がられてしまった。
反省しなければ。あたしは、いつだって完璧でいたいから。
進路のことでお母さんと喧嘩したから元気はなかったのかも、というと、藍はそっか、と納得した様子を見せて、改めてあたしの身体に向き直った。
「紬乃、なんでこんなに肌白いの。お人形みたい」
「毎日日焼け止め塗ってる」
「俺も塗ろうかな」
「藍は何もしなくても白いでしょう」
そうだな、と藍があたしの胸元にキスを落とした、そのとき。
近くに置いていたスマホが、音を立てた。
「どっちのスマホ?」
「紬乃のだよ。俺のは音消してるから」
「……じゃあ、スマホ、とって。あたしも音消すから」
藍が腕を伸ばして、テーブルの上にあったスマホを取り上げた。
藍はあたしの通知画面を見て、すこし顔を顰めた。
「千歳から何か来てるけど」
藍の言葉から発される、千歳、という言葉にぞっとしたけれど、藍には何も悟られたくなかったから、あたしは平然とした顔でそれを受け取る。
〈明日、どこかで会えない?〉
藍はこの通知を見て、あんな顔をして見せたのだろうか。
だとしたら、千歳からのこのメッセージは迷惑甚だしい。
何でいつも、藍と一緒にいるタイミングでメッセージを送ってくるのだろうか。
まあ、通知を切らないあたしが悪いと言ったら、それまでだけど。