藍が帰ったあと、どうしても気になることがあったから、録音アプリを起動させた後、もう関わらないと決めたはずの千歳色に電話をかけた。


 電話はわずか1コールで繋がった。

 彼がずっとあたしからの連絡を待っていたみたいで、気味が悪い。



『織方さん、どうしたの』



 電話をとった千歳色が、落ち着いた声で尋ねてくる。

 なんで電話をかけたか、知っているくせに。

 何だか無性に腹が立って、あたしは声を荒げた。



「後輩のあの子のこと、千歳くんがバラしたの?」



 単刀直入にそう聞くと、彼は何でもないふうな様子を見せた。



『さあ、どうだろうねえ?』

「この間、これ以上何もしないでって言ったはずだけど」

『別に、表立って何かしたわけじゃあ、ないよ』



 裏でなら、何かしたってことでしょう。

 そう行間を読んで、ため息をついた。



「千歳くん、おかしいよ。あたし、もうやってらんない。だから、ごめん、もう関わりたくない」



 はっきりそう言って、電話を切ろうとしたとき、電話口の向こうから、そっと囁くような声が聞こえた。



『いいの? 例えば俺がね、俺と織方さんで結託して、彼女を脅して万引きさせました、って言いふらしたら、どうするの?』



 指先が冷たくなる感覚がした。

 千歳色は、一体、何のためにこんなことを言うのだろう。



『だから……そんなこと言わないでよ? 寂しいなあ』

「……そんな」

『大丈夫だから。全部、全部俺に任せて?』



 待って、という言葉の途中で、通話はぷつりとあっけなく切れてしまった。

 スマホを片手に、立ち尽くす。


 早く、こいつとの繋がりを断たなければ、そのうち、取り返しのつかないことになる。

 そんな不安が募るのに、なす術はない。

 あたしはどうすれば良かったのだろうか。