そんなあたしたちは、新作の化粧品だとか、誰かの噂話とか、はたまた恋愛についての話を嗜好としている。
たとえば、今嬉々とした顔で彼氏の話をする日菜は、6つも歳が離れた社会人の彼氏がいて、たまにこうやって、彼氏の惚気、みたいな話をする。
あたしは、そんな日菜の言葉に相槌を打ちながらも、心の底ではくだらない、と思っていたりもする。
だって、あたしたちみたいな高校生のガキからしたら、社会人で、バイトでは到底稼げないような額のお金をもらっていて、車まで持っている男性に憧れを抱くことは何ら不自然ではないけれど、世間一般的に見れば、相手は女子高生に手を出したいだけの変態じゃないか。
日菜がもらっているのは、まっすぐな愛情じゃなくって、本当は、ただの犯罪めいた性欲だろう。
そんなこと、本人に対しては口が裂けても言えないけれど。
だからあたしは、そんな恋愛の仕方はしない。
大人になってから振り返った今が、所謂黒歴史というものにならないように、女子高生というブランドを保てる今、今しか作れない思い出が欲しい。
だって、車内でキスをする、とか、相手とホテルに行く、とか、そういうことは大人になってからだってできる。
だけど、相手と教科書とかジャージの貸し借りをしたり、誰もいない教室でキスをしたり、だとか、そんなことは今しかできないのだから。
「てか、紬乃は藍くんとどうなの?」
いつの間にか会話のベクトルは、日菜の社会人彼氏の話から、あたしの彼氏である藍に向けられていて、あたしは、ああ、と言って、カフェオレのパックを手に取った。