「紬乃は、聞いた?」



 藍が、ひとつ言葉足らずな質問を投げかけてきたので、何が? と問う。

 藍は、あたしの隣にぴったりとくっつきながら、



「森田さんの話」



とあたしに投げかけてくる。

 森田が売春していた、だなんていうセンセーショナルなニュースは、すでに藍の耳にも入っていたらしい。

 あたしは、ああ、と相槌を打ちながら、



「びっくりだよね。そんなことする子だと思ってなかったから」



と、白々しく答えてみせた。


 藍はそのあと、森田さんが学校に来なくなったから、藍のクラスの体育祭実行委員に穴が空いた、ということを伝えてきた。


 どうやら、体育祭直前になって実行委員を代えることは難しいらしく、本来は各クラス男女1名ずついなきゃいけない実行委員なのに、藍のクラスの女子の実行委員は穴が空いたまま、体育祭に臨むことになってしまうらしい。


 大丈夫だよ、藍。それで無事に体育祭を終えたら、藍は、たった1人でクラスを回した、体育祭実行委員の委員長になるんだから。

 みんなはきっと、藍のこと称賛するよ。

 藍がそんな称賛を欲しているかは、わからないけれど。


 森田の件が思ったよりも燃え上がってしまって、罪悪感がないといったら嘘になるけれど、でも、噂を広めたのは、あたしだけじゃないでしょう?


 森田の秘密がみんなに知られるようになったのは、確かに、あたしが陽世に匿名で情報を流したことが一端だけど。

 陽世も、ひそひそと噂をし始めたクラスのみんなも、面白おかしく森田のことを馬鹿にし始めたくだらない男子も、そして、あたしに森田の秘密を教えた千歳色も、全員、共犯者だから。