「紬乃、どうかした?」



 あたしの顔を心配そうに覗く藍に向かって、何でもないよ、と言った。

 藍は、そっか、といって、あたしの頭をやさしく撫でる。



 あの日、千歳色から、森田が売春してる、と伝えられたときは、そんなの嘘にきまってる、だなんて思ったけれど、いつの間にか交換した連絡先から、森田が相手を探すために使っているSNSアカウントのリンクと、森田が中年くらいの男性と腕を組んでいる写真が送られてきたとき、これは本物だ、と確信して、やけに興奮したのを鮮明に覚えている。



 とはいえ、そんな情報をあたしが広めたら、まあ、あからさますぎるっていうか、あたしと千歳色との繋がりだって、誰にも知られたくなかったから、そこは、陽世を利用した。



 誰とも繋がっていない、あたしともわからないようなSNSのアカウントを使って、「これって、あなたの学校の生徒ですよね」という文言とともに、森田の例のSNSアカウントのリンクと、男性と腕を組んで歩いている写真を、ダイレクトメッセージで陽世に送りつけた。


 うちのグループの中で一番おしゃべりな陽世は、絶対にそのことを黙っているわけがなかった。

 実際に、森田が売春していた、という情報は、陽世の口からあたしたちに伝えられ、それからは静かに、だけどものすごいスピードで、学年中に広まった。


 森田の売春、という情報は先生たちの耳にも入って、先生たちは、いかんせん売春は犯罪だとわかっているから、生活指導と称して、森田から事情聴取をしたみたいだけど、森田は口を割らなかったらしい。


 結局、森田がそのあとどうなったかはわからないままだけれど、森田はその一件から、学校に来なくなった。