森田の秘密、というのがどういうものかはわからないけれど、その言葉の重さが、なぜかあたしの感情とフィットしている気がした。
そしてもうひとつ。森田の秘密を知れば、何か今の状況を打開するための策が生まれるかも、だなんて醜い欲求さえ生まれてしまったものだから、あたしは思わず、首を縦に振っていた。
「森田の秘密って、なに?」
そう問いかけたあたしを見て、千歳色は満足そうに笑って、こちらに近づいてくる。
「教えてあげる。耳、貸して?」
千歳色は、あたしが持っている、所謂パーソナルスペースというものも軽々飛び越えてくる。
そしてあたしの目の前にぴったりと自分の身体を寄せたかと思えば、あたしの右肩に垂れる、縮毛をかけたばかりのさらさらとした髪の毛を人差し指の甲で掬い上げて、あたしの耳に、自分の唇を近づけた。
千歳くんのしずかな息が、あたしの右耳を撫でて、耳が弱いあたしは、それのせいで藍との情事の熱を思い出してしまうものだから、何だか変な気分になってくる。
けれどあたしのそんな事情なんてお構いなしの彼は、ゆっくりと、あたしにしか聞こえないくらいの声で、あの子の秘密を話し始める。
「森田さんってね、」
彼のほとんど息みたいな声が、あたしの耳に伝わる神経をぞわり、と撫でながら、あの子の秘密を、淡々と伝えた。