そこまで言われてしまったら、あたしにはなす術がなくなってしまう。ここでもう少し良い言い訳が思い付いたなら良かったけれど、そんなにうまくいくわけがなく、だったらいっそ開き直った方が、だなんて思った矢先に、また、彼の口が開いた。



「俺、森田の秘密、知ってるけど」

「……秘密?」



 突然投げられた、秘密、という言葉に困惑して、あたしは眉を顰める。



「そう。秘密」

「……まって、その前に」



 彼が話し続ける前に、あたしは彼を制止した。

 あたしの頭の中はすでにクエスチョンマークで満ちていて、ひとつずつ紐解かないと、整理がつかなかったからだ。



「あなた、誰?」



 すごく失礼な質問だけど、とつけ足すと、彼は、ああ、と思い出したような顔をして、



「ごめん、名乗るのが遅かったね。千歳(ちとせ)(しき)です」



なんて、平気な顔で続ける。



「ちとせ、しき?」

「そう。千歳飴の千歳に、(いろ)って書いて、(しき)



 こんな珍しい名前、聞いたら忘れるわけがないのに、目の前の彼、千歳くんという人の存在を、あたしは現に初めて知った。

 何だか妙な気分になって、あたしは黙ってしまう。


 相手の名前を知ったからと言って、彼のことがわかるわけでも、この状況が良くなるわけでもなかろうに、あたしは一体、何をしているのだろうか。


 というか、向こうはあたしを、織方さん、だなんて呼んでいたけれど、千歳くんはなぜあたしの名前を知っていたんだろう。


 そんなふうに、また頭を混乱させていると、千歳くんが、それでさ、なんて言いながら、改めて、あたしにあの疑問を投げてくる。



「森田さんの秘密、知りたい?」