保険会社の総合職って話だけど、具体的にはどういう仕事をしてるのかあたしはよく知らない。毎日毎日スーツ着て出かけるのって肩こらないのかな? いつも同じような服装で座りっぱなしで仕事なんて、あたしだったらつまんなくて病みそう。
 よくデスクワークなんてできるよねー。
 なんて思ってたんだけど。
「はい、これ当面の生活費」
 伴さんからずっしりとした封筒を手渡された。
「ええっ!?」
 中身は渋沢栄一が、たまに福沢諭吉も顔出すけど――二人ともけっこういらっしゃる!
 あたしの一か月ぶんの給料くらいはある。それをポンッと手渡すなんて……まさか、横領とかやってるんじゃ……。
 伴さんは仏頂面で
「心配しなくても、あたしの貯金から出してるから」
「いいの? こんなに」
「だって、ルームシェアさせてもらってるんだし、これくらい出さないと希世子に迷惑がかかるでしょ」
「伴さん……」
 再会して以来、ピーン! と張りつめていた緊張が、ほんの少しだけほぐれた。
 華サマって昔からけっこう「仁義」のひとだよ、ってみやびが言ってたけど、確かにそのとおりかも――。
「それだけあれば、少なくとも今月は大丈夫よね」
「うん! ありがと」
 ん? 待てよ。
 少なくとも今月は? 
 伴さん、いつまでうちにいるつもりなんだろう。
 さすがにお正月までいっしょに過ごすのはカンベンしてほしいんだけど……。