やわらかベージュピンクの空間に無機質なモノトーンが加わると、部屋の印象がぐっと変わるみたいに、タイプの異なるひとがうちにいると生活の空気が一変する。
「このコーヒーメーカーなに!?」
 しかも、新生活応援フェアとかで売ってるようなやつじゃなくて、本気のコーヒー好きが愛用してるような本格派。いつの間にか台所に置いてあるんですけど?
「それ、あたしのやつ。希世子も使っていいから」
 伴さんはダイニングテーブルで淹れたてのコーヒーをたしなんでいる。
 手に持っているマグカップもうちにある雑貨屋さんで買ったみたいなタイプじゃなくて、どこかの窯元が作ったようなやつ。渋い。
「コーヒーなんてドリップでよくない?」
「ダメ。豆から挽いたのにはかなわない」
 と、伴さんはあたしにもコーヒーを淹れてくれたけど、
「ちがいが分からない……」
 なんかただ苦いだけのような気がする。
 だいたいあたしブラックよりカフェラテ派だし!

「もう出かけるの?」
 伴さんはいつも朝八時前には家を出る。始業は九時だから、もっと遅く出たって間に合うはずなのに。
「朝のほうが仕事の効率がいいから」
 効率かー。あたしはギリギリまで寝てたほうが仕事に集中できる気がするけど。
 長い髪をゴムでくくり、黒いパンツスーツとスニーカーを身に着け、まるでキャリア官僚みたいなどっしりとしたコートを羽織るのが伴さんの通勤コーデ。スニーカーは職場でパンプスに履きかえるらしい。
 こういうスタイル、高校の頃とあんまり変わらないな。
 伴さん、いっつも髪をゴムでササッとひとまとめにしててスカートも短くせずにそのまま履いてたから、ふつうならダサいってからかわれるところなのに、あのズンっと迫り来るような長身と、鋭いまなざしに震え上がったクラスの子たちから、ひそかに「野武士」って呼ばれてたんだよね。