「疲れた? 出かけたついでに弁当買ってきたけど。ちょっと冷めちゃってるから、温めたほうがいいかもね」
 と、伴さんは弁当の入った袋をあたしに手渡した。
 あれ、これ最近人気のお惣菜屋さんのお弁当だ。
 地元の名産品を使ったおかずがたくさん入ってておいしいけど、高いからあたしなんてとても普段は買わないのに。
 彼女なりに気を遣ってくれてるのかな?
「……先に食べといてくれてよかったのに」
 すると、伴さんは少し照れたように、
「あたしも普段はいつもこの時間に食べてるから」
 と、つぶやいた。
 強引なのか、遠慮深いのかよく分かんないな、このひと。
 ま、ともかく。
「ありがとう。サラダだけ作るね」
「今から? 弁当だけでよくない?」
「一品でも自分の作ったものがあると、少し気持ちに余裕が持てるから」
 我ながらヘンな理屈なんだけど。
 ひとの作ったものを食べると、気持ちがホッとする。そういう話をたまに聞く。
 忙しくて、つらくて、どうしようもないとき、外食でもインスタントラーメンでも、ひとの作ったものを口にしたら、気持ちがふわっとほどけていく。
 これはほんとうにそうだと思う。
 いっぽうで忙しさに追い立てられて、外食やできあいのものが続いたときは、一品でも自分で作ったものが食べたくなる。
 特別料理の腕に自信があるわけじゃないけど、自分の味が恋しくなるときもある。
 とくにサラダ。みずみずしいサラダ。白いボールにいーっぱい!
 ざく切りにしたレタスに大きめに切ったトマトときゅうり、水菜とスプラウトをどさっと入れて、オリーブオイルとお醤油少々、つぶした梅干しで作った自家製のドレッシングであえる。さっぱりした風味が疲れた身体に染みわたるんだよね。
「よかったら、伴さんもどうぞ」
「……ありがと」
 伴さんは黙々とあたしの作ったサラダを食べ始めた。
 おたがい会話らしい会話はほとんどしなかったけど、その日の晩ごはんは二人とも残さず食べた。