あれは高校一年生のとき。
 当時ダンス部に入っていたあたしは、今度開かれる大会の選抜メンバーオーディションに向けて毎日猛練習してた。
 中学のときの文化祭で、友だちといっしょにアイドルグループのダンスを完コピして披露したらすっかりハマっちゃって、高校でもダンス続けることにしたんだよね。
 部員は全部で三十名。だけど、大会に出られるのは八名。
 狭き門を突破するために、そのときのあたしは自分でも恥ずかしくなるくらい熱血でがんばってた。
 なのに、それなのに。オーディション当日。
「どうしよう……」
 なんかお腹痛いな、緊張してるせいかな? とトイレに行ったらよりによって生理。
 ウソウソウソウソ、いつもより一週間早くない!?
 困ったな、ナプキン持ってないよ。
 保健室行こうかな? 友だちに貸してもらおうかな?
 でもオーディションまでもう時間ないし――。
 トイレのなかで頭を抱えていると。
「どうしたの?」
 ドア越しに響いてきたのは、低い声。
 この声は――うちのクラスの伴さん!
「え、えっと」
「さっきからずっと出てこないから。具合でも悪いの?」
「具合が悪いっていうか、ちょっとアレで」
「アレ?」
「アレになって困ってるっていうか……」
 あーもー! 少しは察してよーっ!
 すると、トイレのドアの上のほうから生理用ナプキンが二つ、勢いよく飛んできた。
「わあっ!」
 言いたいことが伝わったのはよかったけど、投げて渡してくることなくない?
 困惑しながらナプキンを拾い上げるあたしに、伴さんはポツリと、
「これで少しは戦えるでしょ」
 と告げた。
 ここは戦地か!
 いや確かに今は大ピンチの状況だけど!
 そんなライフル銃の替え弾みたいにナプキン渡されても!
 そうツッコミたくなる気持ちを抑えつつ、ようやくトイレから出ると、もう伴さんの姿はそこにはなかった。まるで風が通りすぎたみたいに消えていた。