「ちょっと待って、なんでそんないきなり……」
 あたし、まだ夢のなかにいるんじゃないよね? こんな悪夢かんべんしてよ。
「住んでたところ飛び出してきて、行くところがないの」
「実家は!?」
「あのへん、大雨の日道路が冠水するのよ」
 それは不便だとは思うけど……。
「だからって、どうしてうちのアパートに!?」
 すると、伴さんはサッとスマホを取り出して、あたしに突きつけた。
「これ」
 スマホに映っているのは、あたしの高校時代の友人、みやびのインスタ。
 こないだうちに集まって宅飲みしたときの様子が映ってる。
『今夜は希世子(きよこ)んちのベランダでチェアリング! ちょー楽しかった!希世子ってば、ひとり暮らしはさびしーからまた来てね! だって。行く行く!』
「そんなわけで、来てあげたから」
 あ ん た じ ゃ な い っ て!
「てゆーか、なんでここが分かったの?」
 うちに遊びに来たことなんてないよね?
 すると、伴さんは、くいっとスマホの画面に指をやって。
「この夜景に百貨店の看板が映ってる。駅前って丸分かりよね。それに、ベランダの観葉植物。こんな背の高い木置いてたら、私の部屋はここですって言ってるようなもんよ」
 ストーカーか!
 確かに無用心だったあたしも悪いけど、それにしたって。
「いっしょに暮らすなんて、突然そんなこと言われても――」
 正直ムリ! きっぱり断ろうと決意した瞬間。
「絶体絶命のところを助けてあげたでしょ」
「え?」
「むかし、あんたが絶体絶命のピンチに陥ったとき、助けてあげたのに」
 あたしが? 伴さんに!?
 だって、あたしたち高校のときのクラスメイトってだけで、そんなに仲良くなかったのに。伴さんに助けられたことなんて――。
……待って、そうだ。高校のときといえば。
 あんまり思い出したくない記憶がよみがえってきた。