「自分たちの出番の直前、あんたが具合悪くなってるの見かけたから」
 伴さんはあたしを助けたあとすぐに舞台に出て、あたしのほうは保健室に運ばれたので、まさか中学のときにすでに伴さんに会ってたなんて思いもしなかった。
「伴さんそのときなんの役やってたの?」
「『美女と野獣』の野獣……」
 うわ、ピッタシ。口には出さないけど。
「だけど、高校のときは演劇なんてやってなかったよね。どうしてやめちゃったの? 人気あったんでしょ?」
「それがいやだったの」
 いやだった?
「イケメン扱いされるのにうんざりして」
 伴さんは男役が評判になるあまり、クラスメイトや後輩の女子たちに日々追いかけ回されるのが苦痛で、中学卒業後は演劇に別れを告げて、髪を伸ばすことにしたのだそうだ。
 おかげでイケメン扱いをされることはなくなったのだが、ここにきて伴さん曰く『新たな災難』が起こった。
「華絵の髪ってすっごくキレイだよね」
 あるとき、伴さんは彼氏にそうほめられたらしい。
 ところが、そのあとの
「このままずっと伸ばしててよ。オレのために」
 という言葉が、伴さんに家出を決意させた。
「めちゃくちゃキモくない!? なんで勝手に他人に決められないといけないのよ。髪型くらい自分の好きにさせてよ、あたしの髪なんだから!」
「浮気が原因じゃなかったんだ……」
「あたし自身じゃなくて、ただ女のパーツが好きなだけだってとこがムカついたの」
 伴さんは、フンッと鼻を鳴らした。
「これからどうしようって迷ってたときに、みやびから希世子のこと聞いて。今のあんたに会ってみたくなったの」
「会ってみたくなった?」
 自分の職場に近いからうちに押しかけて来たんじゃないの?
「……昔からあこがれてたから。希世子に」
 伴さんはいつになく真っ赤になってそう答えた。
「ええっ!?」
 い、い、今のあたしの聞きまちがいじゃないよね?
 伴さんが、あたしに?