伴さんの話によると、あたしのアパートを出たあと、この近くにあるワーケーションが可能なホテルに滞在していたらしい。
 イヴでどこのお店も混んでるから、ササッとコンビニに夕食を買いに行こうとしたんだけど、通りかかったレストランの窓からお通夜みたいな顔のあたしが見えたので、思わず気になって声をかけたのだという。
「別に放っておいてくれてよかったのに」
 てかお通夜みたいな顔とかよけいなお世話だし。
「そういうわけにもいかないでしょ。せっかくのクリスマスイヴなんだから、どうせならあたたかい気持ちで過ごしたいじゃない」

 アパートに帰ると、伴さんは台所に立っておもむろになにか作り始めた。
「なにしてんの?」
「ケーキ作ってるの」
「ケーキ?」
 料理の苦手な伴さんが?
「だって、イヴといえばクリスマスケーキでしょ?」
「いいよ、そんなの今さら……」
「少しでも恩返ししたいのよ。あたし、希世子にいろいろお世話になったのに、こないだは、なんにも返せないで別れちゃったから」
 やがて、台所にはほっこりとあたたかく甘いにおいが立ちこめてきた。
「はい」
 と、お皿に盛られて出てきたのは確かにケーキ。ケーキなんだけども。
 これって、これって……。
「ホットケーキじゃん!」
「しょうがないでしょ、だってこれしか作れないんだもの」
 しかも皿からはみ出そうになるほどでっかいし、ぶ厚い。
 ながめてると、だんだん笑いがこみあげてきた。
「伴さん、これケーキっていうよりザブトンだよ……」
 クリスマスイヴなのに、ロマンチックのかけらもない。
「ブツブツ言ってないで早く食べてよ!」
 怒ってる伴さんを見てると、ますます笑いがこらえられなくなる。
「あっ。味はおいしい。ふわふわ」
 惜しみなくバターとはちみつをかけながらザブトンならぬホットケーキを口に運ぶと、ほっこりとした甘さが口の中に広がった。
 不器用だけど、素朴な伴さんの優しさが伝わってくる。
 ズダボロに終わると思われたクリスマスイヴの夜に、ささやかだけどあたたかな光が灯った気がした。
「ようやく落ち着いたみたいね」