「いいな、そういうの」
 伴さんは、顔を上げてそうつぶやいた。
「伴さんは? 今の仕事にやりがいないの?」
 たくさんお給料もらってるっぽいのに。
「ないわけじゃないけど、事務職なんていうのは影の仕事だから」
「カゲ?」
 忍者みたいな!?
「そう、あくまでも影でがんばる仕事。手続きにいろいろ手間がかかったり、あれこれ調べることも多かったりするけど、お客さんにとってはそんなの関係ないでしょ。どんな業務も手早くスムーズに片付いて当たり前。難しいことや大変なこともたくさんあるのに分かってもらえなかったり、つまずくことも多いの」
 伴さんでも悩むことがあるんだ……。
 なんでもソツなくこなすイメージあったから、つまずくなんての想像できない。
 そういえば、彼女とこうやってしっかり話したことなんて今までなかったかも。
「だから、こうやってひと息つける時間があるとホッとするのよね」
 めずらしく、伴さんの口元にかすかな笑みが浮かんだ。
 あれ? もしかして伴さん、あたしとの晩ごはんの時間、気に入ってる?
……まさかね。

「いいな、そういうの」
 伴さんの言葉がなぜかここ数日耳から離れない。
 ダンスやってたころの十代のあたしが今の自分を見たら、
「大人になっても好きなことやれてるじゃん」
 ってホッとするかもしれない。
 だけど、ショーウィンドーのコーディネートは季節ごとに、そして流行ごとにどんどん目まぐるしく変わっていくのに、あたしの生活は入社当時からたいして変わってない。
 給料も待遇もおんなじで、そのくせ仕事量は増えてくし、社割で買える服もますます値上がりするいっぽうで。
 願った場所にいて、やりがいもあって、自分なりに努力もしてる。
 それなのに、どうして、進めないの?
「あのね、みんな――」
「店長、どうしたんですか?」
 気のせいかな、なんだか顔色がよくない。
「今日、閉店後残ってくれない? 社長から発表があるの」
 発表?