三十歳くらいまで生きてきた私が今更高校生なんてやり直せるのかなという不安はあったけど、精神は体の影響を強く受けるのか日を追うごとに違和感はなくなっていった。四月になる頃には大人だった頃の方がどこか遠く懐かしいように感じるくらいだった。私ってこんなにポヤポヤしてたっけって自分にビックリすることもあるけれど。
「新しい制服、間に合わなかったなあ」
一週間前から住み始めた下宿の小さな姿見で前の高校の制服を着てくるっと一周回ってみる。変なところはないだろうか。こっちの世界に来てから制服を着るのは初めてではないけれど、今日はいつもより入念に確かめる。
よし、大丈夫。
スクールバッグを持って最後にもう一度姿見の前に立つ。胸元のリボンをちょっとだけ整えて、外に出た。
高校までの道のりは既に下見して覚えているけど、初登校日ということでワクワクとドキドキが胸の奥で弾んでいる。こっちの世界に来てから2ヶ月間、あっという間だけどこの日が待ち遠しかった。
今年の冬は長くて三月頃まで寒さが続いていた。4月に入ってようやく暖かくなってくるとともに桜が咲き始め、通学路は桜がはらはらと舞っている。春風に背中を押され、新しい高校へ通う。私にはやるべきことがある。けれど同時にこれは私にとって新しい人生のはじまりだ。
高校時代の宮入博士――宮入君はどんな人だろう。宮入博士は不愛想な子どもだったと自分の過去を笑っていたけど、そんなことを言っても宮入博士の高校時代なら可愛らしさとカッコよさが両立していたんだろうなとか色々考えてしまう。同じクラスになることは新しい担任となる石川先生から聞いていて、顔を合わせるのが待ち遠しくてドキドキする。
住宅街から高校に向かって伸びる道の交差点。信号を待っていると少し後ろで自転車が止まるキィという音がした。下宿から歩いて通えない距離ではないけど、自転車を買ってもいいかもしれない。
春風がふわりと吹いて、私の髪をふわりと揺らす。髪を押さえた弾みで吸い込まれそうなミッドナイトブルーの瞳と目が合った。
自転車に乗る男子生徒が私を見ている。少し癖のある髪と遠くを見通すような細くキリっとした瞳。一度見たら忘れられないくらい印象的な雰囲気を纏っている。
初めて見るはずの人だけど、それが誰だかすぐに分かった。吹き抜けた桜色の風が私たちを優しく包む。
全然科学的じゃないけれど、まるでここで出会うことが必然だったような気がした。そう、それはまるで運命のように。
元の世界では近くて遠かった一歩を彼に向かって踏み出す。もし、これが本当に運命だというのなら。この世界に来ると決めた私の選択は、きっと間違っていなかった。
「ねえ、宮入君。タイムトラベルって信じる?」
「新しい制服、間に合わなかったなあ」
一週間前から住み始めた下宿の小さな姿見で前の高校の制服を着てくるっと一周回ってみる。変なところはないだろうか。こっちの世界に来てから制服を着るのは初めてではないけれど、今日はいつもより入念に確かめる。
よし、大丈夫。
スクールバッグを持って最後にもう一度姿見の前に立つ。胸元のリボンをちょっとだけ整えて、外に出た。
高校までの道のりは既に下見して覚えているけど、初登校日ということでワクワクとドキドキが胸の奥で弾んでいる。こっちの世界に来てから2ヶ月間、あっという間だけどこの日が待ち遠しかった。
今年の冬は長くて三月頃まで寒さが続いていた。4月に入ってようやく暖かくなってくるとともに桜が咲き始め、通学路は桜がはらはらと舞っている。春風に背中を押され、新しい高校へ通う。私にはやるべきことがある。けれど同時にこれは私にとって新しい人生のはじまりだ。
高校時代の宮入博士――宮入君はどんな人だろう。宮入博士は不愛想な子どもだったと自分の過去を笑っていたけど、そんなことを言っても宮入博士の高校時代なら可愛らしさとカッコよさが両立していたんだろうなとか色々考えてしまう。同じクラスになることは新しい担任となる石川先生から聞いていて、顔を合わせるのが待ち遠しくてドキドキする。
住宅街から高校に向かって伸びる道の交差点。信号を待っていると少し後ろで自転車が止まるキィという音がした。下宿から歩いて通えない距離ではないけど、自転車を買ってもいいかもしれない。
春風がふわりと吹いて、私の髪をふわりと揺らす。髪を押さえた弾みで吸い込まれそうなミッドナイトブルーの瞳と目が合った。
自転車に乗る男子生徒が私を見ている。少し癖のある髪と遠くを見通すような細くキリっとした瞳。一度見たら忘れられないくらい印象的な雰囲気を纏っている。
初めて見るはずの人だけど、それが誰だかすぐに分かった。吹き抜けた桜色の風が私たちを優しく包む。
全然科学的じゃないけれど、まるでここで出会うことが必然だったような気がした。そう、それはまるで運命のように。
元の世界では近くて遠かった一歩を彼に向かって踏み出す。もし、これが本当に運命だというのなら。この世界に来ると決めた私の選択は、きっと間違っていなかった。
「ねえ、宮入君。タイムトラベルって信じる?」