金曜日。
なんか今日は、微熱っぽい……。昨日またまた寝不足で。完全に風邪をひいた。
でも、今日中に仮入部届、出さなきゃいけなかったはず……。行かなくちゃ……。
無理をして出た電車の中。
「今日も寝癖ついてるけど」
佐々木くんは可笑しそうに笑って、オレの寝癖をピンピンはじく。
「またあとで、直してあげるね」
「ありがと。お願いします……」
佐々木くんは、あれからずっとオレの寝癖を直してくれていた。正直、北斗に会わないなら、もう、髪型なんてどうでも良くて、日々寝癖がついてる。直してくれなくてもいいのだけど、でも、優しい友達ができたのは嬉しいので、好きなようにしてもらっている。
「優、どうしてマスク?」
「ちょっと喉が痛くて」
「そっか。無理しないで」
「ありがと」
なんだか、ふらふらするなあと思いながら、学校に到着。
今日は席替えがあって、佐々木くんとは離れちゃったけど。窓際の後ろの方。
快適……。ふと、窓を見たら、北斗が体育をしていた。
――なんか。元気ないかな……北斗。太陽みたいなオーラが、感じられない。
いつもの北斗は、太陽みたいに元気で笑顔がキラキラしてるし、皆が北斗の方を向くから、なんだか遠くからでも、どこに北斗がいるか見つけられるのに。今日はなんか……?
あっ……北斗も、体調悪いとか……?!
オレのこの風邪、移しちゃってたとか……わー、どうしよう……。
昼休み。早く食べ終えて、隣のクラスを覗いたけど、北斗は居なかった。昨日の女子の会話が浮かぶ。
屋上。行ってみようかな……でももしかして、女の子とデート中とか?
く……くわれちゃってる……のを見たら、ショックで死んじゃうかもしれないけど。でも。あんな元気ない北斗は初めて見たから……。
話したい。……話せなくても、せめて近くで、顔、見たい。
屋上ってここの上だよな、と階段を上っていく。
あれ。……鍵かかってる。開いてないじゃん。なんだよう。
そう思って、くるりと踵を返したら。
階段を上り終えたところの、隅っこの方の壁に寄りかかって座り、顔を伏せてる人が突然目に入って、「わっ」と声が出てしまった。びっくりした。ドキドキしてると、その人が顔を上げた。髪、似てると思ったけど……北斗だった。
「――優?」
立ち上がった北斗に、心臓がバクバクして、急に焦る。
「なんでこんなとこに……」
言った瞬間、思い当たったこと。あ。誰かと、待ち合わせか。それ以外に、こんなところに北斗が一人で居る意味、ないもんね。
「あっ、ごめん、すぐ、行くから」
胸が痛い。痛すぎるけど。
邪魔なんて出来ないし。
階段を下りようとした時。
「優――」
不意に後ろから伸びてきた手が肩に触れた。その手が前へと滑って、胸の前で絡むみたいに、ぎゅ、と抱きしめられていた。背中に感じる北斗の体に、声も出ない。心臓だけが、やたら速く動いている。
――北斗の匂いがする。って変かな……でも、ずっとずっと側にあった、北斗の、匂いが、胸を締め付ける。