「えと……あの……オレも、佐々木くんと話してるし、朝、別のグループみたいになってるでしょ? なのに隣に居て、なんか、あの……ちょっと気まずい感じだからさ。あの……話したかったら、家でも、会えるし」
「――バスケ部に入るから。平日も土日も結構ある」
「……そう、なんだ」
「あんま、会えなくなるけど」
「――そっか。……仕方、ないよね」

 仕方ない。北斗は、ほんと色んなことしてて、ただでさえ忙しいし。高校の部活とか。中学までとは違うんだろうし。二人で、なんだか気まずいまま、歩き始める。

「優はバド部続けるの?」
「ううん。続けない。他の部活に入ると思う。ちょっとやりたいことがあって……」
「――違う部活だと、帰りも一緒に帰れないよな?」
「仕方ない、かな……オレと北斗、友達もかぶらないし……あ、それはオレが、しゃべれないのが、いけないんだけど」
「――優、電車で、しゃべってんじゃんか」
「あ、佐々木くんは、なんか、話しやすいから……」
「――そいつと話してんの、楽しそうだもんな……」
「――え……あ、うん。まあ……」
「――」
「……北斗? あの……」

 なんだか、すごく――珍しく、ムッとしてる気がする。駅についてしまって、電車がホームに滑り込んでくる。

「えと……あの……」

 なんて言ったら良いんだろう。言葉が全然出てこない。どうしよう。
 オレの目の前で、北斗が、はぁ、とため息をついて、オレに目をあわせないまま、呟いた。

「仕方ない、か」
「――」

 ズキ。あれれ。なんか。胸が、きゅうって、痛い。

 どうしよう。思った瞬間、電車のドアが開いて、北斗が中に乗り込むと、またキラキラさんたちが、北斗を囲んだ。佐々木くんも乗っててこっちを見てる。オレは佐々木くんの隣に立った。

「おはよう、優」
「おはよ、佐々木くん」
 昨日までは、話さなくても、北斗の隣だったんだけど。今日はつい、離れたところに、立ってしまった。北斗が、全然、こっちを見てくれなくて、なんだかすごく、どんよりした気分に襲われる。それでもなんとか、佐々木くんと話してると。

「なあ優。気になってたんだけどさ。隣のクラスの目立つイケメンくん。オレの萌えキャラの」
 萌えキャラって、いまいち意味が分からない。北斗のことを言ってるんだろうけど、と思いながら、うん、と頷くと。
「優と一緒に来てるの? それともたまたま、同じとこに並んでただけ?」
「――あ。うん……幼馴染みでね。一緒に来てたんだけど」
「だけど? 今日は離れてていいの?」
「ん、あの……クラスも違うしね」

 そう言うと、佐々木くんは、ちょっと考え深げに、眼鏡の奥の瞳を揺らした。

「なるほど……あれだな、環境の変化が、関係に変化をもたらすっていう……王道だな」
「――ん?? 王道??」
「いやーなんか。ほんと萌えるね」
「……佐々木くんが何言ってるかたまに分かんないけど」
「まあまあ、萌えの話だから」

 クスクス笑う佐々木くん。
 ズキズキズキ。なんか、頭、痛い。どうしよう。
 なんか。北斗、一度もこっち、振り返らない。
 
 佐々木くんと他愛もない話をしながら、オレは、じんわり痛い胸の奥に、みぞおちのあたりのシャツを握りしめた。

 そのまま北斗とは話せず一日を終えた。いつもなら来るスマホへのメッセージも、何も来なかった。怒ってるっぽい北斗に、オレから送れるわけもなかった。