「なんなのお前、可愛すぎるんだけど……!! 殺す気?」

 そんなことを言いながら、どんどん近づいてきて、これはもう、絶対、なんか……!
 焦って、北斗の口を、両手でバッテンを作ってガードした。

「何その嫌がり方、うそだろ」
「だ、だって、三十九度近い熱、うつったらこまる……!!」
「うつっても本望だから」
「何言ってんの、無理……!! やだやだ……!!」

 その時、がらっとドアが開いた。やたら美人な校医の先生が、オレ達を見て笑った。

「あー。あなたたちね。学校中で話題の、お姫様だっこの二人は。公認カップルになってたよ?」

 くっくっと笑いながら、校医の先生が入ってきた。
 
「あ、そうなんですか? ――手間が省けたかも」

 北斗が楽しそうに笑うと、先生は、おや、と眉を上げる。

「ほんとにそうなの?」

「はい」
「いいえっ」

 北斗とオレの答えがかぶった。
 先生は面白そうに笑って、北斗はムッとしてオレを見つめる。

「~~~~っっ入学して十日しかたってない、からっ」

 わーん、モテモテの北斗の相手が、オレなんて知れたらどうなるかー!
 オレは、平穏に、目立たず、高校生活を、過ごしたい……!

「まあ確かに、まだ学校にも慣れてない状態だと、優にはすげー重荷かもな……ん、じゃあ分かった。皆に言うのは、もう少し先にする。先生、内緒でお願いします」
「――突然、そんな秘密を共有されても……」

 先生は笑いながら、「とりあえずおうちの人に連絡しようか」と言う。

「親に言うのも待ってください……心の準備が……!」

 熱のせいもあって、興奮気味で涙目のオレに、「違うから」と、北斗と先生が同時に突っ込んで、それから、可笑しそうに二人、笑い出した。


◇ ◇ ◇ ◇


 結局その後。
 北斗とオレは、表向きは親友という形を保っている。

 朝、晴れの日は二駅分歩いて、二人だけの登校タイムを過ごしつつ。

 電車で他の人が居ても北斗と話せるようになったのは。「北斗がオレと話したい」って思ってくれていることを知ったから。今までは、他の人と北斗の邪魔にならないかなって、オレ、思っちゃってたから。

 なんとなく、少しずつ周りにもバレたりしながらも。なんだか穏やかに過ごしている。

 なんか佐々木くんには最初にバレて、「王道のBL好きなんだよねぇ、オレ」と、よく分からないことを言われたけど。まあでも「力いっぱい応援するから」と言ってくれていて、とっても仲良くしてもらっている。