校医が居ない保健室で熱を測ったら、三十八度七分。

「そんなにあるの……?」
 布団に寝かされて、はあ、と息をつく。かけられた布団のカバーが、熱のある顔に冷たくて、気持ちいい。これは結構やばいかもしれない。ベッドの脇の丸い椅子に腰掛けた北斗は、ため息をついた。

「やっぱり月曜、体調悪かったんだろ。変な顔してたもんな」
「……あの時はまだそんなでもなかったし……何で分かるの……」
「何年、顔、見てると思ってんの。なめんな」
「――」
「朝、お前がニコニコで迎えに来るの。それだけで、オレ、何でも頑張れるし、どんなことでも出来るしって、思ってたよ」
「――――」

「……なんで火曜から、寝癖、はねてんの? 可愛いけど。つーか、佐々木に直して貰うのは、やめろよ」
「……何で知ってるの……」
「オレがお前のクラスしょっちゅう見ちまうのも。お前に会えるかなーと思って廊下に居たのも。知らない?」
「……」

 そういえば、昨日の女子達も、廊下に居たのにって、言ってたっけ。

「ていうか、それ、今までもずっと、お前とクラス違う時はそうしてたけど、知らないの?」
「――いつも廊下で、楽しそうに皆と遊んでて、人気あるなぁ……って。今も顔見れて良かった、とか、思っては、いた……確かに廊下には居たような……」
「――」

 全然伝わってねぇな……と、北斗は苦笑してる。

「じゃあ、別に道に誰がいても良いのに、お前と二人で話したいから十五分早く出てたとか、試合見に来て貰ったのもオレが元気が欲しかったからだし、学級委員とか別に好きでもないけど、そういうのすると、お前がキラキラした目ですごいねって可愛いから頑張ってたのとか。高校、別に近くなくても良かったけど、お前がここだから決めたとか――そういうの、全部。優が理由なんだけど、知ってた? まあ……小さい頃のは自分でも、どこからが恋愛感情かは、わかんねえけど……でも、ずっと、優が一番、好きだった」
「――……」

 なんか今すごいことをたくさん言われた。

「あの、オレは……北斗が混んでる道が嫌で良かったーって思ってたし……試合呼んでくれて嬉しかったし……前に立てる北斗はすごい尊敬だったし……高校も、近いとこがいいって、良かったーって……ラッキーだとは、思ってた」

 そう言うと北斗は、はは、と苦笑した。

「すげえ。なんか、オレの全部、何も伝わってない」と可笑しそうに笑う。

「まあいいや……もうこれからは、全部、話すし」

 北斗はそう言いながら、オレの頭を優しく撫でる。

「寝癖ついてても可愛いから良いけど、佐々木に直させるのは無し。直すならオレが直す」
「……ふふ」

 笑ってしまう。
 北斗と会えるなら、オレは、また寝癖は無くなるから、大丈夫。
 って。朝の儀式、言ったら笑われるかな……。

「なんで来たの、朝も熱あったんだろ? あ、マスク」
 さっきオレから外して、抱き上げる時に手首にひっかけてたらしいオレのマスクを、布団の上に、ぽん、とのせた。
 そのままオレの額に手を置いて、顔をしかめる。

「熱すぎ……」
「ん。あの……仮入部届、今日までだって言ってたから来たの……」
「休んでたら来週で大丈夫だろ」
「……そうなのかな……今日までじゃないとダメかなって思って……」
「そんなの適当にどうにかなるのに。真面目だよな……そういうとこ、可愛いけど」
「――」
 心臓がとまりそうなんですが……。

「んで? 何部にはいんの?」
「――調理部」
「調理部?」
 不思議そうな北斗に。オレは、ちょっと恥ずかしくなりながらも。

「……北斗、甘いもの、好きだけど、砂糖控えめが良いって言ってるじゃん……? だから、オレが……作れるようになったらいいのかなって……ここ、そういうお菓子をよく作るって、書いてあって……だから、なんか、朝、会えなくても……一緒に食べれたらいいなって思ってて……」
「~~~~~!!!」

 なんか、急に赤くなった北斗。口元を押さえた後、パタパタと顔を仰いでいる。
 そんな顔。初めて見たかも。